暇潰し映画ガイドとして優秀な『ユーロクライム!』
- 『ユーロクライム! 70年代イタリア犯罪アクション映画の世界 [Blu-ray]』
- フランコ・ネロ,ジョン・サクソン,ヘンリー・シルヴァ,フレッド・ウィリアムソン,アントニオ・サバト,リュック・メランダ,リチャード・ハリソン,クリス・ミッチャム,マイク・マロイ
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できることなら古今東西のありとあらゆる映画を鑑賞したいが、これまでに制作された作品の数があまりにも膨大なため、とてもじゃないが不可能だ。その代わり、せめてどのようなジャンルの作品が、いつの時代に世界のどのあたりで流行したのか、そしてそのジャンルにおける代表作ぐらいは把握しておきたいとは思う。ある程度の偏りはあるにしても、自分としてはそこそこ幅広い作品群を見るようにしてきたつもりではあるので、頭の中には自分なりの大雑把な映画史のようなものはある。
と自負していたのだが、何の気なしに『ユーロクライム!70年代イタリア犯罪アクション映画の世界』を見たところ、割合好みのジャンルでありながら、その存在がまるっきり抜け落ちていることはまだまだあるもんだな、と考えを改めさせられた。
本作は1970年代のイタリアで隆盛を誇った犯罪アクション映画群について、当時の関係者へのインタビューと代表作の名場面でつなぐドキュメンタリーだ。刑事もの、犯罪もの、アクションもの、それらが入り混じった作品は、娯楽映画の王道として、いつの時代でもどこの国でもおそらく作られ続けているわけで、単品で目にしたところで珍しい印象を受けることはない。が、70年代のイタリア映画界ではこのジャンルが当たるので、次から次へとそればっかり作られまくっていたとは知らなかった。
きっかけとなったのは、アメリカ映画『ブリット』『ゴッドファーザー』『フレンチ・コネクション』『ダーティハリー』の大ヒット。これにあやかり、イタリアで模倣作品を製作したら同じくヒットし、パクリからパクリが生まれ続ける結果となった、と証言者たちは語る。同じくアメリカ映画を模倣した上で、50年代には歴史劇、60年代には西部劇がイタリアで量産されていることを考えれば納得できる話だが、ではなぜそうした作品群のことは把握していたのに、70年代のイタリア製犯罪アクション映画群を自分は全然知らなかったのか?
先に書いたように本作では代表作の名場面が頻出するのだが、「この作品もそうだったのか!」というような、一般的に知られているような有名作がないのである。イタリア製西部劇=マカロニウエスタンにおける『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』などに相当する名作らしき作品がない。全然出てこない。知らない映画ばっかり。おそらく意図的に名作や有名作を避けているのではなく、掘っても掘ってもそんなものは存在しないのではないか。それぐらい、儲かるから、当たるから、というだけで粗製濫造されたジャンルだったのではないか。
実際、旧作の見せ場のフィルムをそのまま再利用した新作も少なくなかったらしいし、4作目まで作られた人気シリーズ『ブラック・コブラ』の主演俳優フレッド・ウィリアムソンは「4作目は1〜3作目の俺の出演場面をテキトーに繋いで作っただけ」などと笑いながら証言しているほどだ。
映画は作品ではなく商品と割り切っていることが感じられて、人生を映画から学びたい真面目な映画ファンからは眉を顰められそうな気がしてならないが、暇潰しに映画を見たいときなどにはこのぐらいの作品群がちょうど良い。本作はそのためのガイドとしておすすめだ。
文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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