もやもやレビュー

死後の新たな形『ワンダフルライフ』

ワンダフルライフ
『ワンダフルライフ』
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死後にこんな時間が用意されていたらいい。是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(1998年)にはそんな理想を抱いてしまいそうな、生と死のはざまが描かれている。

場所は、息を引き取った直後に一週間だけ滞在する施設。そこですることは、ずっと胸に刻んでおきたい思い出を一つだけ選ぶことだ。タイムリミットは3日。たったの3日で選べるものか!となりそうだが、死者たちは至って冷静。もちろん困った顔をする人もいるけれど、微笑みながら幸せそうに記憶を言葉にする人もいる。そうして集まった思い出たちは、施設のスタッフによりもれなく短編映画化される(カメラを回すのは40年ほどデヴィッド・ボウイを撮り続けた鋤田正義さん......!)。

素敵じゃないか。私にも作ってくれないか。ついそう思ってしまうファンタジーな内容だが、ドキュメンタリー要素も混じっているのが斬新。というのも死者役としてキャスティングされた22名のうち、半数以上は一般の人。愛おしく語られる思い出話の多くは実話(のはず)なのである。是枝監督が脚本制作のため一般人との取材を重ねていくうちに、彼らの表情や語りに惹かれ、思い切って出演依頼をしたのだとか。

人生の最後にこんなに美しい表情で思い出を振り返ることができたら、どんなに素敵だろう。ちょっと羨ましくも思える表情がたくさん詰まった作品だった。

(文/鈴木未来)

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