もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2021年10月号

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』10月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊妄想かわら版』二回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、こんなご時世ですが映画館で観てもらえたらうれしいです。
10月公開の映画からはこの四作品を選びました。


『TOVE/トーベ』(10月01日公開)
公式サイト:https://klockworx-v.com/tove/
予告編  :https://www.youtube.com/watch?v=nMwYxKG017w

TOVE_main.jpg

 第二次世界大戦下のフィンランドで今なお世界中で読みつがれ、愛されている「ムーミン」を生み出したひとりの女性がいた。そのトーベ・ヤンソンの人生を描いた『TOVE/トーベ』。
 トーベ(アルマ・ポウスティ)の絵を石膏か絵の具で汚れた指で「これが芸術か」と問いただす厳格な父。その父の絵を見た娘は「私は祖国のために描かない」と冷たく言い放ち、さらには「常識にとらわれずに活動する」と宣言している姿を予告編で見ることができます。また、男性だけでなく、女性と恋仲になっていく彼女の姿もあります。
 ここからは妄想です。と言いたい所ですが、今年8月に「ムーミン」と「DHC」のコラボが展開される予定だったものの反発する意見が多く出たことが引き金になり、本国の「ムーミン」の著作管理会社は「いかなる差別も容認しません」とコラボを中止にしました。
 トーベ自身が「ムーミン」を描き出した1940年代のフィンランドはソ連と対抗するためにナチス・ドイツやイタリア側について戦いました。戦時下におけるファシズムが蔓延している最中、彼女が抗い続けようとしたことが「ムーミン」における自由さや多様性に繋がっているのです。だから、今のような不寛容な時代にこそ「ムーミン」を、トーベを求める人が増えているのではないでしょうか?

TOVE_sub01.jpg

『TOVE/トーベ』
10月1日(金) より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
© 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved


『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(10月08日公開)
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/POTG/
予告編 : https://www.youtube.com/watch?v=df9hsGA4nqY

POTG_main.jpg

 ニコラス・ケイジ主演×園子温監督作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』。凶悪犯として捕まったふんどし姿のヒーロー(ニコラス・ケイジ)は、ゴーストランドを支配しているガバナーという人物から行方不明になっている孫娘のバーニス(ソフィア・ブテラ)を探し出せと言われます。そこは狐の面をつけた和服姿の人々やカントリーウエスタンのような格好の姿の人たちもいて、この作品の舞台が和洋折衷な世界観であるのが予告編を見るとわかります。
「必ずお前達を自由にする!」とゴーストランドで奴隷のように働かせられている人たちにヒーローが告げ、見つけ出したバーニスと共にガバナーを倒しに行こうとするシーンもあります。
 ここからは妄想です。町の人達の服装はカラフルで、予告編でもガラスが割れて飛び散る色とりどりな風船の映像があり、ヒーローとバーニスの黒い服装と非常に対照的です。また「ここはゴーストランド。逃げ出すことはできない」とヒーローたちに言っている人物もいます。元凶とされているガバナーの夢見ている世界がこの「ゴーストランド」なのかもしれません。ガバナーを倒すとこのカラフルな夢が終わってしまい、囚人服を着て監獄に収監されている年老いたガバナー、ヒーローは看守だったというラストシーンかもしれません。

POTG_sub2.jpg

10月8日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド
©2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


『かそけきサンカヨウ』(10月15日公開)
公式サイト:https://kasokeki-movie.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=R6yi2Ykjfjk

メイン.jpg

 人気作家の窪美澄の短編小説を今泉力哉監督が実写化した『かそけきサンカヨウ』。高校生の陽(志田彩良)は父の直(井浦新)とずっと二人暮らしだったため、家事などを幼い頃からやっていた。そんな折、父から「恋人ができた。その人と結婚しようと思う」といきなり告げられます。そして、その恋人の美子(菊池亜希子)には幼い娘がおり、二人が結婚したことでいきなり四人家族での新生活が始まります。また、幼い義妹のひなたのいたずらで大事にしていた絵本を破られてしまい、陽はそれまでの戸惑いなどの感情も含めて爆発させてしまう姿が予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。陽は同級生の清原と幼少期にいなくなり、現在は絵本作家となった母の個展を訪れる場面も予告編にあります。原作の窪美澄さんの小説では「母と娘の関係性」がいろんな形で書かれてきました。映画でもその関係性と大人になる(母を許す)ということが軸に描かれるはずです。
「早く、大人にならないといけなくしてしまったのは、僕なのかもしれない」と父が陽に言うのも、子供時代にしっかり子供らしくさせてあげられなかったという後悔でしょう。陽は大人たちの本音に触れることで、義妹であるひなたにはそんな思いをさせない大人になろうと決意するそんな終わり方かもしれません。

サブ1.jpg

10月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
配給:イオンエンターテイメント
© 2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会


『ビルド・ア・ガール』(10月22日公開)
公式サイト:https://buildagirl.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=b0qHDaLcXpc

【メイン】10月22日(金)公開映画『ビルド・ア・ガール』.jpg

 『ブリジット・ジョーンズの日記』制作陣が贈る『ビルド・ア・ガール』。1993年、イギリス郊外で暮らす冴えない高校生のジョアンナは悶々とした日々を変えるために髪を真っ赤に染める。そして「ドリー・ワイルド」と名乗ってド派手な格好で大都会ロンドンに乗り込み、ロック誌の批評家に大変身します。
 ドリーの批評は超辛口で話題になり、次第に音楽業界でも彼女は有名になっていきます。ロック界のスター・ジョン・カイトのインタビューを取れば認めてやると編集者に言われた彼女は彼との距離を縮めていくものの、書いた原稿は「使い物にならない、ひどい原稿だな」とあっさりボツにされてしまいます。そして、実家に逃げ帰るのですが...。
 ここからは妄想です。予告編でドリーが「自分作りの途中で道を間違えたらやり直せばいい」「失敗しても諦めずに進み続けるだけ」と語っているシーンがあります。彼女は本来の自分ではない、虚飾していたキャラクターとなってロンドンの音楽業界で活躍していました。しかし、そのメッキが剥がれ落ちてしまった。この作品はほぼ「実話」だからこそ、ドリーがある種、観客に向かって上記のようなセリフを語っているのでしょう。彼女は等身大の自分を受け入れて批評家として復活し、前よりももっと辛辣で愛情あふれる批評を書いて大活躍しているというラストシーンだと思います。

【サブ㈬】10月22日(金)公開映画『ビルド・ア・ガール』.jpg

10/22(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン、フラッグ
©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019


(文/碇本学)

- Profile -
1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」連載中です。園子温監督が手がけられた映画『リアル鬼ごっこ』のノベライズ『リアル鬼ごっこJK』、Amazonプライムドラマ『東京ヴァンパイアホテル』エピソード8&9脚本を執筆しています。

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム