もやもやレビュー

複雑な気持ちが残る『グリーンブック』

グリーンブック(字幕版)
『グリーンブック(字幕版)』
ヴィゴ・モーテンセン,マハーシャラ・アリ,リンダ・カーデリーニ,セバスティアン・マニスカルコ,ディミテル・D・マリノフ,ニック・バレロンガ,ブライアン・カリー,ピーター・ファレリー,ピーター・ファレリー
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2019年、伝記コメディ映画『グリーンブック』(2018年)が数々の賞をさらったことはまだ記憶に新しい。本作では、1962年のアメリカで、アフリカ系アメリカ人のクラシック系ピアニスト、ドクター・シャーリーが、8週間におよぶツアーに出る。車で移動するにあたり彼が運転手に選んだのは、イタリア系アメリカ人のトニー(ヴィゴ・モーテンセン)。人種の違うふたりが、時をともにすることで距離を縮め、関係を育む様子が話の中心にある。

それ以上に心動かされるのは、ドクター・シャーリーがあえて人種差別の色濃いアメリカ南部をツアー先に選んだこと。宿泊先やレストランは、黒人客を受け入れる場所を記した「グリーンブック」を頼りにするものの、演奏先のレストランに入れてもらえない、ひとりだけ公衆トイレに案内される...など、またかとばかりに不当の扱いを受ける。それでも声も手もあげず、会話でその理由を問いただす。何ごとにも誠意を持って接するドクター・シャーリーを見て、トニーのなかにあった差別的意識が徐々に薄れていくのも、見どころといえるだろう。

複雑な気持ちにさせられる点もあった。たとえばシャーリー家は、映画公開後、映画の事実関係に誤りがあると訴えた。それでもトニーの実の息子であり、脚本も手掛けたニック・バレロンガは実話だと言い張り、制作陣も実話という言葉を突き通した。実話と呼ぶかは考えたいところだが、ドクター・シャーリーの情報をできる限りかき集めて、役づくりに勤しんだマハーシャラ・アリや、彼の演奏役を務めたクリス・バワーズの努力は忘れたくない。

(文/鈴木未来)

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