もやもやレビュー

精神の崩壊を描きホラー映画の常識を覆した『反撥』

反撥(字幕版)
『反撥(字幕版)』
ロマン・ポランスキー,ジェラール・ブラッシュ,カトリーヌ・ドヌーブ,イヴォンヌ・フルノー
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モンスターや幽霊といった"物理的恐怖"がホラー映画の定番だった1960年代。そこで登場したロマン・ポランスキー監督の映画『反撥』は、精神の崩壊をメインに人間の内面の恐ろしさを描き、話題となりました。主演を演じたのは『ロシュフォールの恋人たち』などで知られる絶世の美女カトリーヌ・ドヌーヴ。彼女は本作でほとんどセリフを放つことなく、表情などで徐々に内面が壊れていく女性を演じ切りました。

舞台は1960年代のロンドン。美容院で働くキャロルは、姉とアパートで暮らしていました。内向的なキャロルと違い、姉は毎晩恋人をアパートに連れ込む自由奔放タイプ。キャロルはアパートに男性がいることに非常に大きな嫌悪感を抱いていました。潔癖症で男性恐怖症でもあるキャロルは、姉が留守のあいだ、男性に襲われる幻覚を見始めます。やがて、現実と幻覚の境界があいまいになり、静かな時間の中、徐々に彼女の精神が崩壊していきます。

前述したとおり、キャロルはほぼ話しません。それでも彼女の恐怖を感じ取れるのは、音と映像を使ってキャロルの心理を上手に描写したところにあると思います。鳴りやまない時計の音、ゆっくりと近づくカメラロール、そして突如ひび割れるアパートの壁など、キャロルの不安定な内面を視覚化したシーンは、どれも強烈な印象でした。

ホラー映画で定番なジャンプスケアもなければ、ある意味「ほぼ何も起こらない」といっても過言ではない本作。目に見える恐怖ではなく、「見えない恐怖」を描いた心理ホラーが60年代に作られたという事実に驚かされました。

(文/トキエス)

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