もやもやレビュー

たまらなく甘酸っぱい『好きにならずにいられない』

好きにならずにいられない(字幕版)
『好きにならずにいられない(字幕版)』
ダーグル・カウリ
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アイスランド映画『好きにならずにいられない』(2015年)のはじまりかたは、少々暗い。

薄暗いキッチン。100キロを優に超える中年男性が、独りでチョコシリアルをたっぷりの牛乳に浸して食べている。髪は結べるくらいの長さだけれど、生え際は薄い。彼の名前は、フーシ(グンナル・ヨンソン)。40代の独身男性で同居相手は母親、趣味はジオラマ遊び、仕事は空港での荷物係だ。

職場では、見た目をからかわれ、おとなしく反抗しない性格もあってか、いじめはエスカレートするばかり。ついでに彼に懐いてきた近所の女の子の父親からも、「すごく変なヤツ」と陰口を叩かれてしまう(話したこともないのに......!)。観ていてだんだんと、悲しい気持ちになってくる。

でも、彼がシェヴン(リムル・クリスチャンスドッティル)という女性に出会うと、それまでどんよりとしていた空気が、ほんのり温かくなる。

シェヴンは明るく楽観的で、花屋で働いている(はず)。二人はあることをきっかけに仲良くなるものの、シェヴンはその後すぐ、家に引きこもってしまう。フーシは彼女が回復できるようにと、彼女のために食事を作り、掃除をし、彼女の仕事を代行し......。口数は少ないものの、思いやりある行動から、彼のやさしさがにじみ出る。果たして二人の関係は、どうなる......?

「好きにならずにいられない」という邦題と、ポップなポスターを見て、主人公の彼が熱烈な恋にでも落ちるのかと思ったけれど、その印象からはかなり外れた。ただ、映画を観ているうちに、フーシを好きにならずにいられなくなるのは、たしかである。

(文/鈴木未来)

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