奇妙キテレツなディストピア『未来世紀ブラジル』
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いまや生活のお供である、スマートフォン。なかなか手放しがたい便利アイテムではあるものの、アメリカ国家安全保障局と中央情報局の元局員、エドワード・スノーデン氏によれば、スマートフォンは人々の生活を覗き込む立派な監視機器。備え付けのカメラもマイクも私たちの指示なしに勝手に作動するというのは、今ではなかなか有名な話。ちなみにこの勝手な行動を妨げるには、スマートフォンを冷蔵庫に入れるといいとか...。
『未来世紀ブラジル』(1986年)で描かれているのは、冷蔵庫にスマートフォンを入れただけでは逃げきれない、未来の監視社会。情報管理社会に批判的な態度を持つテリー・ギリアム監督が、40年近く前に作り上げた作品である。ゾッとする話にも聞こえるものの、ギリアム監督特有の奇妙キテレツワールドには息つく間もなく引きずり込まれる。
主人公は、20世紀のどこかと設定される世界で、情報記録局に勤める凡人サム(ジョナサン・プライス)。特にこれといった夢を持てるような世界でもなく、せめてものエスケープは、眠りにつくとき。目をつぶれば彼は羽のついた戦士で、ある美しい女性を救うために奮闘中! ひょんなことから、彼は夢に出てくる女性とウリ二つの女性を情報局で目撃。以来彼は情報記録局の情報を頼りに、彼女を追い求めるが...というのは上辺の話。
それ以前にどう頑張っても無視できないのが、ふたりを取り巻くダークな世界。どこに行っても異様な存在感を放つ灰色のダクト。色がついた泥団子のような、謎の食べ物。単なるダクトの修理屋なのにテロリスト扱いされる男、バトラー(ロバート・デニーロ)...。どうも心に引っ掛かる点は、今の世界にも存在する問題をいくらか大袈裟に見せているようにも思えてくる。細部に注目すればするほど、サムが夢に出てくる女性と必死に結ばれようとする理由も見えてくるかもしれない。
(文/鈴木未来)