もやもやレビュー

必殺仕事人の淡い恋にしてやられる『ドライヴ』

ドライヴ(字幕版)
『ドライヴ(字幕版)』
ライアン・ゴズリング,キャリー・マリガン,ブライアン・クランストン,クリスティナ・ヘンドリックス,ロン・パールマン,ニコラス・ウィンディング・レフン
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

この男、謎である。まず名前がない。昼間は自動車の修理工場で働き、時折カーチェイスのスタントマンを。そして夜は犯罪者の逃走を手伝うドライバーとして、超絶技巧の運転を見せる。おしなべて、それくらい。人となりや背景が全く描かれないまま始まり、終わる。さらにいうと、ドライバー(ライアン・ゴズリング)の表情も乏しい。口角がほんのちょっとだけ上がっただけの繊細な笑顔。うなずくシーンだって5mmくらいしか頭が動いていない(それが可愛くて萌えるのだが)。しかし、それに引き換え、カーチェイスシーンの激しさよ。静と動という相反する魅力が同居するのが、この男の、この映画のたまらない魅力なのだ。

寡黙なドライバーは、マンションの同じフロアーに暮らすアイリーン(キャリー・マリガン)と出会い、恋に落ちる。二人が視線を交わす瞬間、きっとこの恋はうまくいかないのだろうと思ってしまい、涙がこぼれた。アイリーンとの出会いをきっかけに、ドライバーの心に灯りがともる。カチコチに凍った氷が溶けていく。しかし、灯りは点滅しているし、氷は溶けきらない。愛する女性を守るため、ひとり身を投じていく彼のストイックな姿には、ただただ哀愁が漂う...。監督は、ゴズリング自身が推薦した、デンマークの鬼才N・W・レフン。この作品でカンヌ国際映画祭・監督賞を受賞した。

情報が削ぎ落とされているせいか、全編に走る緊張感。それを彩るのが楽曲たち。聴くたびに各シーンが蘇るサントラが秀逸なので、作品と合わせて強くオススメしたい。

(文/峰典子)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム