もやもやレビュー

しっとり滋味深い、執事のロードムービー『日の名残り』

日の名残り (字幕版)
『日の名残り (字幕版)』
Anthony Hopkins,Emma Thompson,James Fox,Christopher Reeve,Peter V08han,Hugh Grant,Michael Lonsdale,Tim Pigott-Smith,Patrick Godfrey,James Ivory,Mike Nichols,John Calley,Ismail Merchant
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

35歳のカズオ・イシグロが英国を舞台に書き上げた『日の名残り』は、伝統を重んじる英国貴族ダーリントン卿と、彼に仕えた典型的な執事スティーブンスの物語。監督ジェームズ・アイヴォリーの手により1989年に映画化された。

舞台は、終戦から10年が経った1956年の夏のこと。執事であるスティーブンスは、新しい主人ファラディ氏の勧めで自動車旅行に出かける。映画化するにあたり、主人公が旅行をしている現在と、過去の回想シーンが行き来する形で構成されている。

アンソニー・ホプキンスが演じる、仕事に全てを捧げるスティーブンスは、悲しくなるほどに実直で謙虚。その仕事ぶりを評価されるものの、愛する人とも結ばれなかった。堅い忠節心をモットーとする使用人像、控えめな恋愛観は、どこか古い日本人の気質も感じる。

スティーブンの忠義心に感心しつつも、迫り来るものがある。言葉遣いは丁寧に進むが、ユーモアもふんだん。派手なアクションも事件も起こらず粛々と進んでいくのだが、引き込まれてしまうのは、やはり名優たちの演技によるものだろう。しっとりと味わい深く、これぞ大人による大人のための映画なのかもしれない。

ちなみに2021年には、ノーベル文学賞の受賞後初となる最新長篇「クララとお日さま」が世界同時発売。主人公はクララというAIロボットだとか。手にするのが楽しみである。

(文/峰典子)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム