「正しい」ってなに?『ドゥー・ザ・ライト・シング』
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「正しい」という言葉は厄介だ。とある辞書には「道徳・法律・作法などにかなっている。規範や規準に対して乱れたところがない」とあり、一見白黒ハッキリしているものかのように聞こえる。でもたとえばここでいう規準は、生まれ育った環境や、今まで見聞きしてきたモノやコトにより、それぞれ微妙に違うこともある。ある人にとって正しくないものが正しいとされてしまえば、「正しい」の意味合いがあやふやになることも。
それぞれが自分なりの正しさを貫こうとすると、どうなるのか......?を人種差別という観点から描いているのが、スパイク・リー監督の「ドゥー・ザ・ライト・シング」(1989年)。
舞台はアフリカ系アメリカ人が多く暮らすニューヨークはブルックリンの街角。汗が肌をしたたる暑い夏が設定である。辺りに住まうキッズは、イタリア系店主サル(ダニー・アリエロ)のピザ屋でピザを頬張り、道行く友達と会話をする。一見、何の変哲もない1日に思えるものの、サルとバギン・アウト(ジャンカルロ・エスポジート)の口論をきっかけに、一人のアフリカ系アメリカ人の死に至る暴動へとエスカレートする。
口論を招いたのは、イタリア系アメリカ人スターの写真がずらりと飾られた、サルのピザ店の壁。そこに目をやり「客は黒人ばっかなんだから、黒人スターが一人くらいいたっていいじゃないか」とバギン・アウト。「自分のスターを飾りたいなら、自分の店を持て」とサル。「たしかにそうだなぁ......考えてみるよ」というように、ことは運ばない。
どんなときでも相手の立場に立って物事を考えるのは、なかなかむずかしいことかもしれない。でも人種差別という大きな問題と向き合うのであれば、まず自分が無意識のうちに貫いている「正しさ」がそもそも正しいのか、なぜ正しいのかをじっくりと見直すことが、変わるきっかけとなるのかもしれない。人種差別について考えるときに、参考にしたい一本である。
(文/鈴木未来)