もやもやレビュー

本当に言いたいことが、一番言えないもの。『たかが世界の終わり』

たかが世界の終わり [Blu-ray]
『たかが世界の終わり [Blu-ray]』
ギャスパー・ウリエル,レア・セドゥ,マリオン・コティヤール,ヴァンサン・カッセル,ナタリー・バイ,グザヴィエ・ドラン
ポニーキャニオン
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

これまでの12年間で何をしてきたかと聞かれても、なかなか一言では表しづらい。著名人を見てみると、伝説的バンド、ザ・ビートルズの結成から解散までがだいたい12年間。『ビッグ』で大人に変身してしまった少年を演じたトム・ハンクスは、12年後、『キャスト・アウェイ』でサバイバル生活を送っていた。

決して短いとはいえないこの期間を、家族と連絡をとらずに過ごしてしまうとどうなるのか。

グサヴィエ・ドランが監督を務める『たかが世界の終わり』(2016年)では、ルイ(ギャスパー・ウリエル)が自身の死を告げに、12年ぶりに実家へと向かう。99分かけてドラン監督がじっくりと映し出すのは、久しぶりに訪ねる実家で、ルイが兄(ヴァンサン・カッセル)、兄の妻(マリオン・コティヤール)、妹(レア・セドゥ)、母(ナタリー・バイ)と過ごす数時間。なかなかぎこちない再会を、昔話で和ませようとする母。そんな試みをまるで無視するかのように、とげとげしい言葉を放つ兄・アントワン。せっかくの再会は言い合いだらけ。ルイは打ち明けられるのか。そもそも言うにふさわしい状況なのか。みんな、実は知っているのか......?

12年間の空白を各々がどのように受け止めてきたのかは、想像することしかできない。でも、重たい沈黙のなかでそれぞれの視線が泳ぎ始めると、本当はただ愛していると言いたいのではないか、と思ってしまう。相手の意図を汲むのも、心を通わせることも思う以上に難しい。役者陣とドラン監督が繊細に描き上げた家族の葛藤には、思わず涙がぽたぽた落ちた。

(文/鈴木未来)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム