電話の力、あなどるべからず。『恐怖分子』
- 『恐怖分子 デジタルリマスター版 [Blu-ray]』
- コラ・ミャオ,リー・リーチュン,チン・スーチェ,クー・パオミン,ワン・アン,マー・シャオチュン,ホアン・チアチン,エドワード・ヤン
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電話は大きく三つのタイプに分けられる。友達や家族、恋人など、想定内の相手とのごくごく普通の電話が一つ。もう一つは「もしもし」のあとに「オレオレ」と続くような詐欺電話。それから聞き覚えのない声がよくわからない話をはじめるいたずら電話もある。
最後のいたずら電話に限っては、かかってきてうれしいものと、かなり不快な後味をもたらすものとでまた分かれる。たとえば前者の一例として、ポップ界のスーパースター、ジャスティン・ビーバーがいたずら電話を「趣味トップ5」に入るとし、とある番組で自身のファンにいたずら電話をしている。「声が低いジョンと、イギリス人のピーターをよく使い回すんだけど、どっちがいいかな」と慣れた提案をする彼。その後、電話口がビーバーだと知った大学生ファン(女性)は見事に発狂し、「Oh my God!(オーマイゴッド!)」を幾度となく繰り返した。
一方でエドワード・ヤン監督の『恐怖分子』(1986年)に出てくるいたずら電話は、後者に当てはまる。暇つぶしにいたずら電話をする不良少女シューアン(ワン・アン)が電話した先は、すでに関係が冷え込みつつある、とある夫婦宅。電話に出た妻(コラ・ミャオ)に対してシューアンが装うのは、旦那(リー・リンチョン)の愛人。この出来事をきっかけに、旦那の一見平穏無事な人生があれよあれよと崩れ落ちていく。
どこを切り取っても絵になる描写にうっとりしつつも、ラストに向かうに連れて「こうなるのか」「ああなるのか」と想像を巡らせているうちに、眉間にシワは寄りはじめるわ、手にはうっすら汗をかきはじめるわ......と、見る人によってはそんなことも(私です)。
それにしても、ヤン監督が美しくおさめてくれるならまだしも、いたずら電話で引き裂かれることのない結婚生活が送りたい、というのが率直な感想である。
(文/鈴木未来)