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音楽は世界を変える!『カセットテープ・ダイアリーズ』

『カセットテープ・ダイアリーズ』 2020年7月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー

何かを悩んでいた時に聴いた曲はその悩みと共に人生の忘れられない一曲になる。思春期の頃に感じる社会の中での息苦しさや恋愛の悩みをリンクさせながら、時には全てを忘れるくらいスッキリとできるそんな曲と出会った時にまるで自分の気持ちを代弁してくれているかのような錯覚にさえ陥る。

イギリスのルートンという小さな町で暮らすパキスタン系少年のジャベド(ヴィヴィイク・カルラ)は16歳。誕生日が同じ幼なじみマット(ディーン=チャールズ・チャップマン)は恋人が出来て青春を謳歌している。自分はパキスタン家庭の伝統やルールを強いる両親のもとで窮屈な生活を送っていると孤独にうちひしがれながら、趣味の詩で気持ちを表現し書きためていた。
ある日、ジャベドはブルース・スプリングスティーンの音楽と出会う。彼の虜となったジャベドは正直な気持ちを表現することが出来るようになっていく。そうして、彼の窮屈だった世界は大きく変化をしてゆくのであった。

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この作品の要となる音楽はアメリカの国民的アーティストであり、ロック界の「ボス(BOSS)」と呼ばれるブルース・スプリングスティーン本人の協力の元、未発表曲を含めた多くの楽曲が劇中で使用されている。
主人公のジャベドを演じたヴィヴィイク・カルラという新星俳優は冴えない主人公ながら後半でみせるはにかんだ顔がなんとも印象的で今後注目したい俳優のひとりとなった。
そして、幼なじみ役を演じたディーン=チャールズ・チャップマンはHBOの大人気シリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)」のバラシオン王役で大ブレイク! あの、バラシオン王がこんな役を演じているなんて...。GOTファンからするとまず、普通の洋服を着た姿に違和感を感じるレベル。女の子といちゃいちゃしていたりなんだかとても普通の男の子。最近では『1917 命をかけた伝令』でも主人公の一人を演じている。こちらも今後の活躍にも期待したい俳優の一人だ。

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この作品を見ていくなかで主人公がここまで崇拝するブルース・スプリングスティーンという人はどんな人なのかどんどん知りたくなった。
彼のことばの中に「学校よりも、3分間のレコードから多くを学んだ」という言葉がある。確かに音楽には多くを語らずとも想像させたり理解させる力がリズムと共に刻まれている。
誰かに押しつけたりすることもなく、自然と耳から離れなくなるメロディーと歌詞。
歌を歌うときに相手に届けたい!伝えたい!という熱い気持ちがあたえるパワーの大きさを改めて感じた。アスリートが試合の前に聴く音楽、ずっと好きだった人に告白する前に聴く音楽、人生を変えるかもしれない瞬間の前に聴く音楽には歌う人の魂が宿っているのだろう。この映画はストーリーと共に音楽を楽しみ憂鬱な気持ちから清々しい気持ちになれるそんな映画だ。

(文/杉本結)

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『カセットテープ・ダイアリーズ』
2020年7月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー

監督:グリンダ・チャーダ
脚本:サルフラズ・マンズール、グリンダ・チャーダ、ポール・マエダ・バージェス
原作:サルフラズ・マンズール「Greetings from Bury Park:Race.Religion.Rock'n'Roll」
出演:ヴィヴェイク・カルラ、クルヴィンダー・ギール、ミーラ・ガナトル、ネル・ウィリアムズ、アーロン・ファグラ、ディーン・チャールズ・チャップマン、ロブ・ブライドン、ヘイリー・アトウェル、デヴィッド・ヘイマン

原題・英題:BLINDED BY THE LIGHT
2019/イギリス/117分
公式サイト:http://cassette-diary.jp
(C)BIF Bruce Limited 2019

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