思春期にタイムスリップ。『はちどり』
映画『はちどり』 6月20日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
現在の映画業界で最も注目度が高く、勢いがある韓国映画。『パラサイト半地下の家族』がアカデミー賞最多4部門受賞したことが大きな影響を与えている。
今回紹介する『はちどり』はなんと韓国最大の映画祭「青龍賞」で『パラサイト半地下の家族』を抑えて、最優秀脚本賞を受賞した。韓国では2019年公開韓国映画ベスト10で『パラサイト半地下の家族』に続き第2位を獲得している。国内外の映画祭で50もの賞を受賞している。
38歳のキム・ボラ監督の少女時代の体験をベースにしている本作。舞台は1994年、その年にソウル中心部を流れる漢江にかかるソンス大橋が突然崩落するという大惨事が起き、韓国国民に大きな衝撃をあたえた。この事故をクライマックスにそこまでに起こる少女の心境の変化を丁寧に描いている。
なぜこの映画の題名は『はちどり』なのだろうか? はちどりという鳥は世界で最も小さい鳥のひとつでありながら蜜を求めて長く飛び続ける。「希望」「愛」「生命力」の象徴とされるその姿が、主人公ウニと似ていると思ったと監督は語っている。なんと素晴らしいネーミングセンスなんだ。
たしかに、主人公ウニは両親からの愛情を存分に注がれて育ったとは言いがたい生活を送っている。世間体を気にして勉強に厳しい親。子供の心の変化には興味も示さない。ウニは学校になじめず、他校の友達と遊び、男子学生とデートをしたりして過ごしていた。ある日、自分の話を聞いてくれる大人の女性と知り合う。その人は塾の先生だったが、自分の内面と向き合い気にかけてくれる人だった。
この映画全体にこれからの未来に向けた「希望」「愛」「生命力」が感じられた。
主人公ウニは中学二年生だけれど、私は自分の高校2年生のころと重なる部分が多かった。進路のことで親ともめる毎日、そんなときに今の職業が向いているのではないかとアドバイスをくれたのは当時通っていた進路相談員の先生だったのだ。
きっと、この映画の端々に見ている人にリンクするようなストーリーがあるのではないだろうか。鑑賞後に感じる、軽いやけどをした時に感じる少しだけヒリヒリとした感覚。ずっとそんな感覚が心のどこかに残ってほんの少しチクチクとした痛みを残している。
思春期の淡く苦い、忘れていた思い出を思い出させてくれる1本だ。
(文/杉本結)
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『はちどり』
6月20日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
監督・脚本:キム・ボラ
出演:パク・ジフ、キム・セビョク、イ・スンヨン、チョン・インギ
配給:アニモプロデュース
英題:HOUSE OF HUMMINGBIRD
2018年/韓国・アメリカ/138分
公式サイト:https://animoproduce.co.jp/hachidori/
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