監督のカニ愛を80分感じる作品『ビッグ・クラブ・パニック』
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酷いB級映画に慣れると、あらすじと本編の内容が違うくらいでは驚かない。ジャケットと作中の映像が著しく乖離していても泣いたりしない。ただ心を無にしてエンドロールが流れるのを待つだけだ。本作もそんな作品の一つだ。
配信サイト等に記載されているあらすじによると、本作は田舎町に隕石が落下することで化石化していた巨大カニが蘇生し街を襲うという内容らしい。しかし実際は、主人公が子供の頃、庭にいたカニに成長を促進する謎の植物の実を20年間も与え続け巨大化したという内容。隕石はどこに行ったのだろう? このあらすじを書いた人間は多分本作を視聴していない気がする。
カニとの戦いでは、何故か自警団が戦車や爆撃機を持っていて攻撃。この手の作品だと酷い場合は核攻撃すら行うので田舎街の自警団が戦車や爆撃機を持っていても突っ込んではいけないのかも知れない。ただ、周辺の森に一切影響なし! リアリティの欠片もない。
そもそもタイトルが『ビッグ・クラブ・パニック』なのに巨大カニが出てくるのは物語が半分も過ぎた辺り。その間、主人公の女は何故かカニを隠していた森で全裸で踊るなど、尺を稼ぐと表記して良いのか首をかしげる映像が続く。
しかし、本作にも見るべき点はない訳でもない。何故かカニはストップモーション・アニメで演出。2015年公開の作品とは思えないクラシックな手法だ。当然動きはカクカクとしており、その辺りは可愛らしい。まぁ人を引き裂いたりするのだが......。あとイラっとする登場人物はカニに成敗されるので勧善懲悪として楽しむことができるかも知れない。まぁそんなところに面白さを見出さないと視聴に耐えられなかっただけの話なのだが......。
全編通して作品から感じられたメッセージは「この監督、カニが好きなんだろうなぁ」しかない。どこかの部分でカニへの愛を表した印象的なシーンがある訳ではないが、基本雑な作品のくせにカニの描写だけはちゃんとしている。もっとも、監督のカニ愛を感じたから何だという話なのだが......。
(文/畑中雄也)