もやもやレビュー

悲しいときはひたすらラテン音楽を流してみよう『欲望の翼』

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主人公は誰からも好かれる人気女子だとしよう。彼女にはイケイケの彼がいるけれど、少々束縛が激しいのが難点。そんな最中、ひょんなことから少々ダサめのナード男子と仲良くなる、人気女子。人気女子&ナード男子はいつしか惹かれ合い、さまざまな展開を駆け抜け晴れて結ばれる!というようなラブコメも見ていて楽しいのですが、現実はそうトントンと進まないときもある。ということで、「たまにはうまくいかない恋愛を描いてくれ」とぼんやりと望む人にこたえてくれるのが、ウォン・カーウァイ監督の『欲望の翼』(1990年)。

本作では自分のほんとうの母親を知らずに育った孤独な主人公、ヨディ(レスリー・チャン)に翻弄される女性と、その女性に翻弄される男性が描かれており、実りそうで実らない一方通行の愛が淡々とスクリーンに映し出されます。

ここまで聞くと「やはり少し悲しすぎるかも」と思うかもしれませんが、どうしようもない切なさは、本作を彩るサウンドトラックが上手に拭ってくれます。ウォン・カーウァイがセレクトしたのは、ちょうど映画の設定でもある60年代香港に流れ込んできた、ラテン音楽。叙情的でありながらもどこか希望を秘めている音色と合わさると、胸がきゅっと締め付けられるシーンでも「まあ、こんなこともあるよね」と、いくらかラクに流せるような気がします。落ち込んだ心にはラテン音楽が効くのかもしれません。本作で何度か扱われるザビア・クガート楽団はさまざまな楽器の音で楽しませてくれ、あっという間に別世界に連れて行ってくれますが、ギターの音色にただただ癒されたいときは、本作で流れる「Always in my Heart」のロス・インディオス・タバハラスがおすすめです。

(文/鈴木未来)

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