もやもやレビュー

なんてことない毎日に大事な気づきは潜んでいる。『ラッキー』

ラッキー(字幕版)
『ラッキー(字幕版)』
ハリー・ディーン・スタントン,デヴィッド・リンチ,ロン・リビングストン,ジョン・キャロル・リンチ,ローガン・スパークス,ドラゴ・スモンジャ,ダニエル・レンフルー・ベアレンズ,アイラ・スティーブン・ベール,リチャード・カーハン,ローガン・スパークス
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

亀とリクガメ。見た目が似ていることから、この二つは混合されてしまうことも少なくない。数年前、あるアメリカ人女性が「わたし、亀を保護するのが趣味なの」といい、リクガメを池にぽしゃんと落とす様子をおさめた動画が、かなりの非難を浴びた。泳ぎ慣れないリクガメは沈んで命を落とす可能性があるにも関わらず「道路に置き去りにしちゃダメ」とまで忠告してしまった彼女は、自然と批判の的となったのである。このネットでの炎上っぷりを知らずに、善意からリクガメを海に返し、結果リクガメが溺れるという事件がその後あいにく相次ぎ、英国放送協会(BBC)は「これは亀です」「これはリクガメです」という文字を画像に加えて、「触れたり動かしたりするのはやめましょう」と記事で注意した。

『ラッキー』(2017年)に出演しているのは、リクガメである。彼はデヴィッド・リンチ演じるハワードの最愛のペットで、現在逃亡中。名前はルーズベルト大統領。幸い池ぽちゃはされないものの、やはりラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)をはじめとする仲間に「亀」と呼ばれてしまい、ハワードは「違う、リクガメなんだ」と何度か正している。

リクガメはさておき本作はというと、90歳のラッキーと彼の毎日をただただ描いた話である。いつものヨガポースをこなし、いつものコンビニでいつものタバコを買う。いつものバーでいつもの仲間といつもの会話をする。平凡な日常生活に聞こえるものの、人生最後の日々を生きるラッキーと彼を取り巻く人との何気ない会話から、大切な気づきが静かに浮かんでくる。「ルーズベルト大統領(リクガメのほう)はなぜ逃亡したのだろう」も、話題にあがることの一つ。ハワードがたっぷり悲しんだ末、ひねりだした解釈はなんとも温かく、ペットが逃亡していなくてもぜひ注目してほしい。

(文/鈴木未来)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム