ファンタジーに命を吹き込んだ男 『トールキン 旅のはじまり』
- 『トールキン 旅のはじまり (字幕版)』
- ドメ・カルコスキ
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お馴染みのストーリーである。主人公が思いもよらぬ経緯で、致し方なく結成されたチームと旅に出る。その過程には敵からの襲撃やボスとの遭遇がある。馬が合わないと決めつけていたメンバーとも、苦楽を共にするうちにいつしか絆が芽生える。裏切りや別れの中で主人公は大きく成長し、最後には試練を成し遂げる。うんうん、あるある。
ファンタジーの分野では、すっかり紋切り型と言えるこの世界観なのだが、これは作家J・R・Rトールキンという男が作り上げたものである。『ホビット』『指輪物語』で描かれている壮大な冒険が、RPGゲームのベースとなっていることは想像に難くない。さらには、ジョージ・ルーカスやJ・K・ローリングもトールキン作品に影響を受けたと公言している。彼がいなければ、ドラクエやスターウォーズ、ハリーポッターも(きっと)この世に存在しない。
英米で20世紀最高の一冊として何度も選ばれているトールキンの作品だが、彼自身が映像でフィーチャーされたことはほぼ皆無。『トールキン 旅のはじまり』で、はじめてその人となりに触れることができた。母の死により孤児となったトールキンは、詩や音楽、絵画を愛する親友たちと文化系チームを結託し、喫茶店で夢を語り合う日々。芸術で世界を変えようと誓うも、時代は第一次大戦へ。世界が大きく変わってしまったとき、芸術に一体なにができるだろうかとトールキンは苦悩する。緻密な世界観がどのように生まれたのか、垣間見られて興味深い。
(文/峰典子)