大作っぽいB級映画『ダーク・タイド』
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サメ映画らしからぬ美しいBGMが流れる予告編と、アカデミー女優のハル・ベリーが主演ということで「これはちゃんとした映画かも知れない!」と思い視聴。結論から言えばサメ映画として妥当な出来。つまり駄作。物語にサメを入れると作品がおかしくなるのだろうかと結構本気で考えてしまう。金をかけた大作も低予算のB級映画も平等に価値がない。
同僚がサメに殺された過去がトラウマになっている海洋生物学者のケイト(ハル・ベリー)は現在、オットセイのツアーガイドをしているが、資金繰りが苦しく銀行から船を差し押さえられそうになっていた。そんな時、かつての恋人から金持ちがケージ・ダイブではなくサメと一緒に泳ぎたいという依頼を伝えられる。トラウマと現実に葛藤しながら依頼を受けたケイトは世界で最も危険なサメの餌場をダイビングポイントにするが――というあらすじ。
ロケ地は南アフリカの海岸でホオジロザメの聖地として知られる場所で、本物のサメの映像を使用しているため臨場感もたっぷり。しかし、本作はサメ映画である。いくら映像が美しかろうがサメの迫力があろうがパニックホラーという体裁を取る以上、サメが人を襲うシーンをぼかしてはいけない。遠くで人が食われたっぽいなんて眠たい演出で恐怖感を煽れる訳がない。
そもそも、いけすかない金持ちという設定の人間が末期がんで子供との思い出づくりのためにサメと泳ぐとか中途半端にハートウォーミングな展開も不要。そんな流れなのにサメに食われるし。子供にトラウマを植え付ける嫌がらせなのだろうか。
主人公は同僚をサメに食われトラウマを負ったはずなのに、エンディングは客がサメに食われ終了。さらにトラウマを背負うバッドエンドかと思いきや、主人公はなぜか憑き物が落ちたような内容に。そこに至る心理描写は皆無なので「一番怖いのはサメでなくて主人公の思考回路なのだろうか?」と本気で考えてしまう。物語の投げっぷりがB級映画並みに雑だ。アカデミー女優が出演するレベルの脚本じゃない。
それにも関わらず、作品として世に出ているというのは、やはりサメには制作陣を狂わせる何かがあるのだろうか......。
(文/畑中雄也)