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もうすぐ私はすべてを忘れる『アリスのままで』

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ことばを持っている動物はたくさんいるが、言語を持っているのは人間だけである。識者によって考え方に差はあるも、世界には約8,000ほどの言語があるそうだ。私たち日本人は日本語しか話さないが、実はモノリンガルは世界のなかでも少数派、30%しかいないと知った。ネパールのような小さな国でも120以上の言語が、パプア・ニューギニアにいたっては840以上の言語があるとされている。言語学の世界にはまだまだ複雑なこと、未開拓の部分も多く、活発に議論が交わされているのだという。

『アリスのままで』の主役、アリスは50歳の言語学者であり、三人の子供を育てあげた母でもある。コロンビア大学で教鞭をとる彼女が、誰よりも「言葉」に強い想いを持っていることは想像に易いが、そんなアリスの身に異変が降りかかる。講義中に言葉が思い出せなくなったり、近所をジョギング中に迷子になる。病院で検査を受けると、若年性アルツハイマーと診断される......。「人生を捧げて来たことが、何もかも消える!」と不安を爆発させるアリス。学生から「散漫な授業だった」「不安定でムラがある」と不満が殺到し、教職を辞めざるを得なくなったシーンには、つらいものがあった。

否応なく進行する病気に立ち向かうアリスを演じるジュリアン・ムーアは、この作品で第87回アカデミー賞主演女優賞を受賞。アリスの夫をアレック・ボールドウィン、2人の娘をケイト・ボスワース、クリステン・スチュワートが演じた。監督は、自身もALS(筋委縮性側索硬化症)という難病を抱えていたリチャード・グラッツァー。グラッツァーの症状は重篤で、撮影終盤には言葉を発することも難しく、特注のiPadを足指でタップすることで指揮をとっていたという。彼だから表現できただろう繊細な演出が素晴らしい。(リチャード・グラッツァーはアカデミー賞の受賞から20日後に永眠)

(文/峰典子)

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