無名を求めた孤高の存在『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』
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ソール・ライター。名前こそ知っていたものの、きちんとその作品群と向き合ったのは、昨年開催された展覧会が初めてだった。計算され尽くされている美しい構図、スパイスのように効かせた色彩センス。じんわりと染み出してくるような優しさ。新しいのか古いのか見当のつかないタイムレスな雰囲気は、一度見たら忘れられないだろう。
1950年代後半から60年代にかけては、NYを拠点に「ヴォーグ」や「ハーパース・バザー」といった媒体でファッション写真を撮影していたという。がしかし、とにかく寡黙だったソール。自身のことも写真のことも、何にも語らない。売り込んだり、お金を儲けることにも興味がなかったソールが、華やかな業界に馴染めなかったことは想像に易い。しだいに表舞台から姿を消してしまう。住まいであるイーストビレッジの街を散歩し、撮影する日々が60年も続く。一部の評論家やコレクターだけにしか知られない写真家となった。
彼に再びスポットライトが当たったのは、2006年、ドイツのシュタイデル社から初の作品集が出版されたタイミングだった。時すでに80歳を超えていたが、熱狂的なファンを獲得。各地で個展も開催された。本作は、そんなソール・ライターの晩年に密着したドキュメンタリーである。ディレクターは30代のイギリス人。「なんでこんなもの撮るんだ。どうかしてる」とのたまうソール。アトリエから想い出を掘り起こしていくかのように、ポツリポツリと語る様子が淡々と描かれる。抑揚に欠けると思うかもしれないが、まるでソールのキャラクターそのもの。クリエイティブな仕事をしている、目指している人間であれば、何かしら感じ得るものがあるはずと思う。
(文/峰典子)