もやもやレビュー

皮肉が"I love you"に聞こえる『サブマリン』

サブマリン
『サブマリン』
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随筆家である楠本憲吉さんの書物「言葉のおしゃれ」のなかで、「心温まる言葉」という章があります。そこで楠本さんは、かざりのような情は誰の心にも響かない、誠意が感じられる言葉ほど胸を打つのだと語ります。たとえば彼は奥様の妹さんが出産をしたとき、単に「おめでとう」と言わずに、「大変だったなァ」という言葉を贈ったそうです。ありふれた祝福の言葉よりも「よく頑張ったね」なんて想いも読み取れる彼の言葉に、妹さんもぐっときたそうです。

この節を思い出したのは、イギリス映画である『サブマリン』(2010)を観ているとき。走り方がどうもダサい主人公オリバーくん(クレイグ・ロバーツ)は、なにごともまどろっこしく口走る少年。恋に落ちるときもそれは変わらず、クラスメートのジョーダンナちゃん(ヤスミン・ペイジ)に惚れた理由を「彼女は少々不人気、だから僕らはきっと相性が合う」なんて語ってしまうほど。ところがその癖のある彼に好感を抱いたジョーダンナちゃん。というわけで、ふたりは晴れてカップルになります。が、本作の途中で自分の母親の浮気を察したオリバーくんは、真相を追うのにすっかり気を取られて、ジョーダンナちゃんのお母さんのガン手術の立会いをすっぽかしてしまい、ふたりの恋愛には一旦ストップがかかります...。

最終的にふたりは仲直りしますが、仲直りのシーンまで漕ぎつけると、オリバーくんの皮肉にうっすらと温かみを感じるようになります。キーフレーズは、オリバーくんがいる海までやってきたジョーダンナちゃんに放つひとこと、「肌が荒れてるよ、犬のせいだと思うけど」。いまそれを言うか!なんて心が叫びますが、これこそが彼なりの「I love you」であり、「きてくれて嬉しいよ」を包含したワンフレーズなのだと自分の心を鎮めていることに気付かされます。

ストレートにいってしまえば愛は伝わりやすいかもしれませんが、それを言わずにしても(それどころか、嫌みを言ってしまっても)相手からの愛情を感じ取れるのは、ふたりの愛の深さ、理解の深さを表すのではないでしょうか。なにはともあれ、鑑賞後も笑顔が顔に残る、ユーモアと初々しさがたっぷり詰まった映画です!

(文/鈴木未来)

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