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英雄の痕跡をたどる『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』

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「そろそろ大馬鹿な役もやりたいよ」なんてインタビューで答えるほど、奇人変人の類を演じたら右に出るものはいないベネディクト・カンバーバッチ。彼の人生を大きく揺るがすほどの当たり役だったと言える「SHERLOCK シャーロック」。過去70回以上もドラマ・映画化されているシャーロック・ホームズを演じるにあたり、コナン・ドイルの小説は全部読破。それでいて、過去の映像作品は完全に無視し、新たなキャラクター像を生み出すことに専念したという。移動はタクシー、携帯が大好きで、早口。偏執的で社会不適合な新しいシャーロックは、彼にしか演じることのできないそれであって、世界中を夢中にさせた。

シャーロックのコメディタッチと打って変わって、ドラマチックでスリリングな『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』を紹介しよう。カンバーバッチが演じるのは、世界一の数学者と呼ばれた実在の人物、アラン・チューリングである。舞台は第二次世界大戦下のイギリス。ドイツ軍が通信に使用している暗号機"エニグマ"を解読するために、チューリングは招集される。

アメリカ、ソ連、フランス、どの国もが解読不可能だった暗号機である。毎夜0時に軍によって設定変更され、翌朝に作戦内容が伝えられる。情報を傍受できたとして、1日で暗号を解読しなければ振り出しに戻ってしまうという。設定の組み合わせは150×10の18乗以上...。精鋭チームには、チューリングの他、チェスのチャンピオンや数学やパズルに強いものが集まり、それを解きにかかる。経緯は本編を見てもらうとして、結果的には解読に成功するのだが、彼には不遇がつきまとい、それが消え去ることはなかった。エニグマ解読後にチューリングは同性愛者の罪に問われ、強制的にホルモン投与されたのち、毒入り林檎を食べ自死を選ぶ。国民を救った英雄にもかかわらず、彼の痕跡は歴史から抹消。国民の署名活動により2013年にエリザベス女王の名をもって恩赦が発効されるまで、彼に栄誉が与えられることはなかったのである。忘れ去られた天才の短い生涯を演じるカンバーバッチにひたすら圧倒される。

(文/峰典子)

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