もやもやレビュー

随所に差し込まれる不穏なリンチ節『ストレイト・ストーリー』

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 B級映画を探索し過ぎて危うく映画嫌いになりそうだったので、たまには過去の名作を観返して穏やかな心を取り戻そうと本作を選んだ。絶交している兄が病気で倒れ、会うためにアイオワからウィスコンティンまでトラクターで旅するロードムービーだ。が、監督はデビッド・リンチのため感動する映画のはずなのにいちいち不穏な雰囲気が差し込まれる。

 誰もが知る名作のあらすじを紹介するのは気が引けるが、簡単に説明する。主人公のアルヴィン・ストレイトは76歳の老人で内臓に疾患を抱え足腰が弱り杖が必要な状態。ある日、兄のライルが病気で倒れたと知らされ560キロの道のりを時速8キロのトラクターで旅することに―。

 見どころは、主人公アルヴィンが壊れたトラクターを銃で撃ち抜き燃やす、撥ねられたシカの肉を焼いているとシカの群れが集まる、坂道でトラクターのブレーキが壊れスピードが出る等々、ヒューマンドラマを観ているはずなのにホラーを思わせる不気味な描写の数々。デビッド・リンチ節がさく裂している。
 いや、物語自体は心温まるものなのだ。余命わずかな老人の兄弟が和解して幼少時のように仲良く空を見上げる結末は思わず胸に沁みた。何度観ても心が潤う内容なのだけれど、物語の核をなしていない場面で、都度に差し込まれるリンチ特有の不穏な映像が「この後誰か惨殺されたり酷い目に遭わされたりするのではないか?」と精神を硬直させるのだ。当然、物語を破綻させるような下手は打っていないが、デビッド・リンチ作品で散々恐怖を味わった視聴者は無条件に反射してしまう。

 ところが、心が弛緩したり硬直したりを繰り返すうちに中毒性を帯びてきて一層作品に没頭できるようになる。それゆえ過度に作品を評価している可能性があるが、そうさせる監督の手腕だろう。もっとも、随所に現れる不穏なシーンはリンチ作品のどこかで観たような既視感はあるけれど......。単なる手癖かも知れない。

「この感動は意図的にもたらされているのか、それとも偶然なのだろうか?」と考えてしまう時点で制作陣の勝利なのだろう。完敗である。

(文/畑中雄也)

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