残酷なほど青春を描いた『blue』
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青春映画というジャンルは過去の記憶を強制的に引きずり出すので、目を覆いたくなったり感傷に溺れたりさせられる。視聴後は「果たしてこの作品は名作なのか駄作なのか?」について延々と考えさせられるためにどうにも疲れる。
自分と縁遠い青春映画であれば客観視できるのではないかと選んだのが、LGBT映画に分類される本作だった。
地方の高校に通う3年生の霧島カヤ子(市川実日子)は留年して1歳年上の同級生・遠藤雅美(小西真奈美)と偶然仲良くなる。霧島は遠藤から音楽や絵画について教えてもらううちに強い憧れを抱くようになり友情や愛情ともつかない関係へと発展していく―という内容。Wikipediaに「レズビアン・ゲイ映画」と分類されていたので「市川実日子と小西真奈美の2人がキャッキャウフフするのか」とニヤニヤしながら眺めていたら、ひどく裏切られた。キスシーンはあるものの、これをレズビアン映画とジャンル分けすることは無理があるのではないだろうか。性的志向に焦点を当てたというよりは10代の心理にフォーカスした内容に映る。
筆者は男で同世代の同級生に憧れを抱いた記憶はないけれど、自分より大人びている人間に憧れる傾向は思春期において珍しいことではないだろう。また同年代の異性が疎ましく見える感情もこの年代ではよくあることのように思われる。本作は徹頭徹尾青春映画であって、恋心は揺れる心境を表現する一つの手段でしかない。
見せ場という見せ場は特にないが、細やかな描写で2人の関係性が変化していく様子を表現している。そのためどこか印象的なシーンを抜き出してどういった作品なのかを説明することが難しい。盛り上がる場面がないため、作品に没入できなければ極めて退屈な映画な気がする。冒頭の場面では女子高生たちが談笑しているだけという塩梅で、忍耐力がない時に観たら間違いなく途中で視聴をやめていた。
だが、実際の高校生活というものも大概が退屈で覆われている。そういう点ではリアリスティック。それゆえに霧島は大人びて周囲と雰囲気の異なる遠藤に傾倒していったのだろうと想像できる。
憧れが持続したら関係性が恋愛に変化するのだろうが、この年頃は日々成長していくもの。自分のやりたいことを見つけた霧島は遠藤とは離れ独自の道を進み、2人の関係が終わることを示唆している。
関係性や心理が即座に切り替わることもまた青春だよなと思うものの、中年には変化が残酷に見えなくもない。
(文/畑中雄也)