『そして父になる』が教えてくれる、学びにつながる「負け方」。
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- 福山雅治,尾野真千子,真木よう子,リリー・フランキー,是枝裕和
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勝ち組、負け組。なんて言葉が流行ったりしましたが、「失敗は成功のもと」と言われるように、負けることも価値あること。負け組ばんざい! でも、ただ単に負けてるだけじゃダメだったんだ!ということに、気付かせてくれるのが『そして父になる』です。
都内の一流企業でエリートコースを歩む福山雅治演じる野々宮家(車はレクサス)と、群馬で街の電気店を営むリリー・フランキー演じる斎木家(車は軽のワゴン)。普通に生きていたら決して触れ合うことのなさそうな対照的な2組の家族ですが、出産した病院で子どもが取り違えられていたことが発覚(しかも発覚時、子どもは6歳!)。それぞれの葛藤を描いた物語です。
仕事での成功に価値を置いている福山さんと、家族との時間に価値を置いているリリーさん。どっちが勝ちでも、負けでもないはずなのに、案の定、福山さんは「電気屋なんか」と斎木を見下し、挙げ句「金を払うから2人とも引き取りたい」と傲慢さをぶつけます。そんな福山さんに対して、リリーさんは小声でつぶやくのです。
「負けたことないやつは人の気持ちがわからない」
主人公は福山さんですが、感情移入して観たのは完全にリリーさん側!という人も多いことでしょう。筆者ももちろんリリーさん側で見ておりまして、上記の台詞に「よく言った!」と溜飲を下げたわけです。が、ふと我に返ると、なぜだかとってもモヤモヤするんです。
けっこう負け続きの人生歩んでるのに、そういえば自分って、全然人の気持ちがわからない。
それはなぜか。
答えは福山さん演じる野々村が持っていました。一見勝ち組に見える彼、ビジネスマンという分野では勝ち組でも、パパという分野ではもともと負け組でした。でも自分を一つの側面からしか見ていなかった彼は、俺って無敵の勝ち組!と信じ込んで、リリーさんから子育てについて説教されてもまったく聴く耳を持ちません。
負けてることに気付かなかったために(気付かないようにしていたとも)、せっかくの負けを無駄にし続けてきた野々宮。そんな彼の「負け」が初めて価値を持った瞬間が、公開当時CMでバンバン使われていたあの台詞を、口に出して言った時でした。「できそこないでもパパだったんだよ。6年間はパパだったんだよ」。
たくさん負けてるからって、人の気持ちがわかって人に優しくできるわけじゃない。野々宮のように負けを認めて消化しなければ、負ける意味がなかったのです。だから負けることに慣れちゃいけないし、そもそも人生負け続きだなんて簡単に口に出してるうちは、本当の負けなんて味わっていないのかもしれない。負けてるつもりの人生は、もうやめてみようか。
(文/鬱川クリスティーン)