苦手分野はファンタジーです。という人にぜひ見てもらいたい『Dr.パルナサスの鏡』
- 『Dr.パルナサスの鏡 [DVD]』
- ヒース・レジャー,コリン・ファレル,クリストファー・プラマー,ジョニー・デップ,ジュード・ロウ,テリー・ギリアム
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「好きな映画のジャンルは?」映画好きで集まると必ず出てくるこの質問。そこで大抵、サスペンスやドキュメンタリー、人間ドラマなど、現実味を帯びた世界観が好きな人と、ファンタジーやラブコメなど、現実ではなかなか味わうことのできない世界観が好きだという人の二手に分かれる。本作は、最新作『ゼロの未来』の公開も控える鬼才テリー・ギリアムによる、「ファンタジーがどちらかと言うと苦手分野です」という人にこそ、ぜひとも見てほしい幻想的ファンタジーである。
舞台は2007年のロンドン。そこに自称1000歳のパルナサス博士率いる旅芸人一座が現れる。おんぼろ馬車に乗った彼らの最大の見せ物、それは"イマジナリウム"と呼ばれる鏡。その鏡を通り抜けた者は、自分の願望がそっくりそのまま形になったリアルな幻想世界を体感できるのだ。
だが、パブの前でその鏡を披露しても、酔っぱらいがチャチャを入れてきたり、乱闘になったりと、まあ大変。でもここがポイント。ファンタジーの世界(鏡の中)と現実の世界(2007年のロンドン)が、いつも隣り合わせでストーリーが進んでいく。また、その鏡を信じた者ものだけが幻想世界に足を踏み入れることが出来るところもポイントである。つまりこの作品は、ファンタジー作品でありながら完全に現実世界がベースになっており、しかもファンタジーをまったく信じない登場人物も出てくる。ファンタジー嫌いでも共感できるファンタジーなのだ。
また、本作の重要人物であるトニーを演じたのは、『ダークナイト』(08)でバットマンの宿敵ジョーカー役を演じたヒース・レジャー。『ダークナイト』公開前に急死し大きな衝撃を与えたが、彼が亡くなったタイミングは、本作の撮影期間中でもあった。撮影は中断され、制作続行すら危ぶまれる中、ジョニー・デップやジュード・ロウ、コリン・ファレルなどヒースの生前の友人たちが力を合わせて友情出演することで、危機を乗り越え本作は完成した。
友人のジョニー、ジュード、コリンが演じたのはみんな同じ役で、未撮影だった鏡の中(幻想世界)のトニー。それにより、見る人によって幻想の世界が違うというファンタジー感をより強く引き出すことができたのだ。しかも舞台裏には、こんな感動エピソードのおまけまで。ジョニー、ジュード、コリンの3人はなんと本作の出演料全額をヒースの当時2歳の娘に寄贈したのだ。
感動的な絆で完成されたヒースの遺作。ファンタジーが苦手な人がファンタジーの世界へ飛び込むのに最適である。
(文/アヤカ・ブルクレ)