一途な思いが、時代を救い、世界を創った。『イミテーション・ゲーム　エニグマと天才数学者の秘密』

映画『イミテーション・ゲーム　エニグマと天才数学者の秘密』、全国公開中！

　本作で描かれるのは、実在した数学者アラン・チューリングという一人の男の物語です。激動という言葉がふさわしいチューリングの人生が、いくつもの側面から映されていきます。その中でも特筆すべきことは、今、私たちが使っているスマートフォンやパソコンの元となる「コンピューター」の原型をチューリングが造り上げたこと。そして、その功績の裏に叶わなかった恋心が隠されていたことです。

カンバーバッチが演じる、アラン・チューリング。

　アラン・チューリングは1912年にイギリスのロンドンで生まれ、1954年にある理由から自殺をし、この世を去りました。本作では、三つの時間軸を操り、彼の42年という短くも波乱に満ちた人生を描きます。その中心となるのが、第二次世界大戦中の1939年、ロンドンのブレッチリー・パーク（当時の政府暗号学校が置かれた場所）での活躍です。

　軍備の体制や攻撃の配置、武器の輸送ルートといった「情報」が戦争の命運を握っていた第二次世界大戦。そんな中で非常に重要な位置を占めていた暗号解読という頭脳戦において、チューリングは天才的な才能を発揮しました。ドイツ軍が誇った暗号製造機「エニグマ」によって、無数のベールに包まれたメッセージ。その強固な壁を破るべく、チューリングは人力の解読作業ではなく、エニグマの上をいく暗号解読機を作り上げました。

キーラ・ナイトレイは、本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネート。

　終戦を2年早め、約1400万人の命を救ったとも言われるチューリングの解読機。さらに特筆すべきは、今我々が暮らす現代にも大きな影響を与えていることです。チューリングが創造した解読機は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが中心となり世界中に行き渡らせた「コンピューター」の原型となったのです。しかし、劇中でチューリング自身が「クリストファー」という名付けた世紀の発明品......その名前の裏には、青年期の悲しい体験が隠されていました。

　タイトルにもなっている「イミテーション・ゲーム」。このワードは、人工知能開発において、コンピューターの思考能力を評価するために行われるテストのことです。コンピューターと人に同じ質問を行い、第三者が「どちらがコンピューターの答えか？」を判断。その判断が難しいほど、「より人に近い知能を持っている」と判定されます。「チューリング・テスト」という別名の通り、これもチューリングが発明したものです。

　このように「人の知能にコンピューターはどこまで追いつけるのか？」という命題を問い続けた彼の背景にあったのは、パブリック・スクール（13〜18才の子どもを教育するイギリスの私立エリート校のこと）時代の恋でした。

　チューリングが恋したのは、同じ学校に通っていたクリストファー・モルコムという一つ年上の友人（男性）。風変わりで周りとうまく会話できなかった10代のチューリングに対しても、気兼ねなく付き合ったクリストファーは、彼にとって無二の親友と言える存在でした。ですが、クリストファーはその後、18才という若さで急死。チューリングの「コンピューターを人の思考へ近づけること」への飽くなき執念は、「クリストファーを擬似的にコンピューターの中に蘇らせたい」という願いが原動力になっていたと言われます。「イミテーション・ゲーム」とは、彼が人生を掛けて挑んだ壮大な挑戦のことです。ひたむきな恋慕と友情が、今の私たちが住む世界の下地を創りあげたのです。

ちなみに、カンバーバッチさんの好きな日本食は、みそ汁。