もやもやレビュー

居心地のいい関係の秘訣は「横目線」。『最強のふたり』

最強のふたりコレクターズ・エディション(2枚組)(初回限定仕様) [DVD]
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フランソワ・クリュゼ,オマール・シー,オドレイ・フルーロ,アンヌ・ル・ニ,エリック・トレダノ,オリヴィエ・ナカシュ
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 昨年ベストセラーになった『嫌われる勇気』。「アドラー心理学」を青年と老齢の哲学者の対話形式で分かりやすく読める一冊なのですが、その中で重要なポイントの一つとして書かれているのが、「対人関係は横の関係であれ」というもの。人と関わる中で、相手をほめても叱ってもいけない。なぜなら、どちらも「自分が上に立って評価する」という上下の関係に立ったものであり、相手を言葉で操作する目的が背後にあるから。そういう関係性ではなく、「同じではないけれど対等」という考えで、横の関係を築くべきである。そう語られています。この「横の関係性」を気持ち良く描いた作品が『最強のふたり』だと思います。

 本国フランスはもちろんのこと、日本でも、これまで日本公開されたフランス映画で歴代一位のヒットとなった本作。首から下の自由がきかない大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)と、粗野で適当な性格だけど、けっしてフィリップを特別視せずに、媚を売らなければ同情もしないお世話係のドリス(オマール・シー)。その開放感溢れる二人の関係性は、冒頭のEarth Wind&Fireの名曲『September』にのせてハイウェイをとばすシーンから明示されています(余談ですが、この三分ほどのシーンが大好きすぎて、ここだけ300回位観ています)。

 その後の物語の中でも、フィリップの車いすを改造して気持ちよく滑走するシーンや、深夜のカフェで昔からの友人のように談笑するところなど、まったく壁を感じさせない関係性を築く二人。そこには、年齢差や育った環境、肌の色の違いから生まれる上下の意識は、微塵もありません。まさに、冒頭の「同じではないけれど対等」な関係です。本を読んだ方はモデルケースとして本作を、本作を観た方は本を、どちらも未体験の方は両方を、ぜひ。

(文/伊藤匠)

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