屈辱が生んだ、最恐の暴君。『ハウス・オブ・カード』
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- ケヴィン・スペイシー,ロビン・ライト,ケイト・マーラ,マイケル・ケリー,デヴィッド・フィンチャー,エリック・ロス,デイナ・ブルネッティ,ケヴィン・スペイシー
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「今後のルールはただ一つだ。この屈辱を忘れるな」
下院のベテラン議員であるフランシス・アンダーウッド、通称フランク(ケヴィン・スペイシー)。自らが支持する大統領候補が就任したことで、国務長官のポストに指名される約束だった彼の展望は、大統領と首相補佐官の裏切りにより、無きものにされてしまいます。激しい侮辱を受けたフランクは、知略と権力を駆使し、不義を与えた者たちへの反逆を開始します。
このドラマ、なにしろ冒頭から凄い。第一話のオープニング、車に轢かれて息も絶え絶えになっていた隣家の飼い犬に対し、フランクが取る行動。瀕死の犬を見限った彼は、おもむろにその首を締めあげます。その際、こんなセリフを吐くのです。
「痛みには二種類ある。成長に必要なものと、ただつらいだけの無益な痛み。私は無益を憎む」
冷酷かつ実利的なダークサイドの人間であることを端的に示すこの始まり方から、フランクというキャラクターの魅力に取り付かれてしまいました。この冷徹な暴君が、どうやって権力者たちを蹴落としていくのか。妻のクレア(ロビン・ライト)や政治記者のゾーイ(ケイト・マーラー)など、様々な人間の思惑が入り乱れながら、フランクの権力闘争は回を増すごとに熱く、激しいものになっていきます。製作総指揮を務めたデヴィッド・フィンチャー監督の最新作『ゴーン・ガール』では、ある一組の夫婦の関係が描かれました。本作のフランクとクレアの夫婦像と対比して観ると、面白さが倍増するはずです。
また、演出も小粋。作中、フランクは観ている私たちの方に顔を向け、頻繁に言葉を投げかけてきます。実際に話している相手には温和な態度を取りながら、こちら側には「このくそ野郎が」という心情を吐露したり、自分の思惑通りに事が運ぶと目配せを投げてきたり。あたかも、フランクと全ての行動をともにする「共犯者」のような立場に置かれます。
個々の行動だけを見れば、明らかに非道かつ残虐であるフランク。そんな彼を心のどこかで支持してしまうのは、目的を達成するためあらゆる手を尽くす、その信念の強さに惹かれてしまうから。新年もスタートし、新たな目標に向けて「やってやる」という気持ちを持っている方も多いはず。ぜひ、この作品を観て、野心たぎる男から比類なき達成欲を感じてみてください。
(文/伊藤匠)