やりきる。それだけで、何も怖くない。『HK/変態仮面』
- 『HK/変態仮面 アブノーマル・パック[DVD]』
- 鈴木亮平,清水富美加,ムロツヨシ,安田顕,佐藤二朗,池田成志,塚本高史,岡田義徳,大東駿介,片瀬那奈,福田雄一
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昨年、NHKの朝ドラ『花子とアン』で、花子の夫・村岡英治役で大ブレイクした鈴木亮平さんの、映画初主演作『HK/変態仮面』(2013)。タイトルの字面と、頭に女性もののパンティをかぶると覚醒する全裸のヒーローというヒーローの概要から漂う猛烈な黒歴史感とは裏腹に、鈴木さんの代表作として確実に定着しています。『勇者ヨシヒコ』シリーズの福田雄一監督の演出・脚本がやっぱし突き抜けている!というのもありますが、それ以上に、鈴木さんのやりきるスキルの高さのなせるわざ! なせるわざ!だと思うのです。無駄に2回言いました、すみません。
変態仮面を演じる。そのためだけに、いや、だからこそかも知れない。鈴木さんは1年以上もの時間をかけて、完璧な肉体を作り上げました。聞くところによれば、いったん体重を15kgほど増量し、そこから脂肪を削ぎ落としていくという、彫刻みたいなアプローチで肉体改造をしたといいます。そして生み出された美しい肉体と、頭部から顔面を覆う女性もののパンツ、その奇妙なコントラスト。妥協のないプロの仕事が、変態仮面を、ネタ以上の作品に押し上げたと言えるのです。
私たち人間には、すべからく恥ずかしいという感情が備わっています。生きる上で必要だから備わっているのだと思いますが、時にそれは、向上心の邪魔にもなります。例えば中学生の時の英語の授業で、いい発音をすると恥ずかしいからと、わざとヘンテコなジャパニーズイングリッシュで発音しなかったでしょうか? 例えばみんなの前でのスピーチで、恥ずかしいからとわざと小さな声でしゃべったりしてないでしょうか? 恥ずかしいって不思議で、恥ずかしさを押さえるために講じた策が、実際にはさらなる恥ずかしさを生んでしまう。もっとやっかいなのは、できることを、できなくさせてしまう、悪魔みたいな感情だということです。
もしも鈴木亮平さんが、変態仮面を少しでも恥ずかしがって演じていたら。確実に黒歴史になっていたことでしょう。その心は、絶対に透けて見える。恥ずかしいという感情は、フォースの乱れのように、例えかすかでも相手に伝わってしまうものだから。変態仮面が教えてくれるのは、やりきることの大切さ。自信を持ってやりきりさえすれば、どんなことをしたって、何も怖くない。カラオケでは中途半端に妖怪ウォッチを踊っちゃいけないし、SNSのプロフィール写真には自分史上最高のキメ顔を使えばいい。犬や子どもの写真でごまかすんじゃない! それが変態仮面が示したリアル。
(文/鬱川クリスティーン)