「強さ」とは「凛々しさ」でした。『リトル・フォレスト 夏/秋』
- 『リトル・フォレスト 夏・秋 Blu-ray』
- 橋本愛,三浦貴大,松岡茉優,温水洋一,桐島かれん,森淳一
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「凛々しい」という言葉を類義語辞典で引くと、二つの意義が出てきます。ひとつは力強く、背筋がのびた「男らしさ」。もうひとつは洗練された気品ある「女らしさ」。本作の主人公は、作る事と食べる事と、なにより生活していく事に、真摯に取り組んでいきます。
東北の小さな村落、小森。コンビニもスーパーもなく、都市とはまるで違う清冽な空気。しゅくしゅくとした時間が流れる場所です。そんな環境で生活を営むのが、主人公のいち子(橋本愛)。中心になるのは、彼女がひとつひとつ丹念にこなしていく料理風景です。「米サワー」や「グミのジャム」など、あまり目にしない料理もちらほら。この作品を観て驚くのは、物語としての起伏がほとんどないのに、画面に見入ってしまうこと。その理由は、「料理をつくる」というシーンをろ過して、いち子の心情や、過去のエピソードが実感を持って伝わってくるから。そこにたしかなドラマが込められているためです。
撮影を担当した小野寺幸浩さんが一年間、実際にロケ地の近くに住み込んで撮った、圧倒的でありながら懐かしさもある東北の自然の風景。アコースティックの音色や、心地よい電子音が優しくミックスされた宮内優里さんの音楽。そして、飽きのこないテンポと印象深い台詞によって、それらを絶妙に調和させた森淳一監督。本作そのものが、滋味ある材料で丁寧に作られた、いち子の料理を体現しています。
この作品の一番の魅力は「主人公の強さ」です。雄大な自然は気持ちよさと同時に、そこで生きぬく厳しさも与えます。そんな中であっても、軽やかに日々をこなすいち子。暮らす場所は違っても、彼女の姿勢から「いまいるここで、本分をまっとうせねば!」というシンプルな活力を分け与えられます。そんな力を貰ったから、少しでも本分を全うすべく、久々に全力でトイレ掃除をしてしまいました。気持ちよかった。観た人に行動させてしまう映画って、とっても凛々しいと思います。
(文/伊藤匠)