もやもやレビュー

【80年代特集!】もっとバカだったら、もっと楽だったかもしれないけど、だけど。『ラストエンペラー』

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バカの方が人生は楽、なんて言われたりするけど、確かにそうかもなぁと、『ラストエンペラー』を観て胸が張り裂けそうになりながら思う秋の夜長。

中国最後の皇帝、清朝の愛新覚羅溥儀の生涯を描いた87年の名作『ラストエンペラー』。わずか3歳で母親と引き離されて紫禁城に連れてこられ、クーデターで追い出されるまで、一歩も門の外に出られない。その後、今度は満州で日本の傀儡皇帝となり、それが終わると戦犯として刑務所にぶち込まれ、やっと娑婆に出られたのは53歳の時。植物園の職員となった溥儀は、かつて自分が暮らして 紫禁城に入場料を払って足を踏み入れる......映画はジ・エンド。

なんて激動で、なんて悲しい人生なんだろう。
いちばん切なくなったのは、8歳の溥儀がいまだに乳母のおっぱいを吸っていたこと。そして「乳母というより好きな女だ(キリッ)なんて男前なセリフを放った直後に、その大好きな乳母とさよならも言えずに生き別れになってしまったこと。この一連のエピソードに、見るのをやめたくなるほど溥儀の深い孤独を感じた秋の夜長だったわけです。ベルトルッチすげーです。

そんな溥儀の人生にとって大きな出来事は、家庭教師のジョンストンとの出会い。彼から英語や、西洋の文化や、いろんなことを学ぶうちに、溥儀は古い慣習に疑問を持ち、「モダン」を求めるようになります。その極致が、汚職にまみれた1000人もの宦官たちを一斉解雇したことでした。

でも、その後、満州の傀儡皇帝になった溥儀には、何一つ権限がありませんでした。理想はあるけど、何もできない。誰もついてこないし、ただ見てるだけ、受け入れるだけしかできない葛藤。
もしも溥儀がバカだったなら、理想なんて持たなかったなら。葛藤も辛さも、孤独だって感じなかったかもしれません。担ぎ上げられて、それだけで幸せだったかもしれない。溥儀よりもっと現実が見えてた奥さんも、頭の中お花畑だった方が幸せに死ねたかもしれない。

なーんにも考えない、バカの方が確実に楽で幸せで、孤独でもないのかもしれないけど。辛すぎる溥儀の人生に心を動かされてしまうのは、彼がバカではなくて、だからこそ孤独だったからなんだろうなって思うと、頭の中がぐるぐるしてきちゃうのです。
(文/鬱川クリスティーン)

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