今は亡き『ヴェロニカ・ゲリン』に尊敬の意を表したくなる。
- 『ヴェロニカ・ゲリン 特別版 [DVD]』
- ケイト・ブランシェット,ジェラルド・マクソーリー,キーラン・ハインズ,ブレンダ・フリッカー,コリン・ファレル,ジョエル・シューマッカー,キャロル・ドイル,ジェリー・ブラッカイマー,キャロル・ドイル,メアリー・アンガス・ドナヒュー
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麻薬で捕まった某有名アーティストがセイ!イエスなんて皮肉られたのは記憶に新しいですが・・・本作は、麻薬組織と勇敢に戦った、実在した新聞記者のお話です。
1996年、当時のアイルランド・ダブリンでは、幼い子供や未成年にまで麻薬が蔓延していました。新聞記者のヴェロニカ(ケイト・ブランシェット)はそんな実情を記事にするため、麻薬組織の売人たちを取材しますが、相手は刑務所に入ったことのある輩もおり、幾度となく危ない目に遭わされます。
例えば。自宅に入ってきた何者かにいきなり拳銃で脚を撃たれたり、相手の家を訪ねた矢先に顔面をボコボコに殴られたり。まだ幼い息子を誘拐すると脅されたり。これが実話だなんて、恐ろしいです。
それでも、売人であることやその密売で儲けた資産を隠していたりする奴らを相手に、ひるむことなく前進し続けるヴェロニカ。彼らに屈したら多くを失う。それは自分にとっても悪い結果だし、ジャーナリズムにとって敗北だからだと。
そんな彼女を心配した母親からのひと言が印象的でした。
「時には戦わないほうがより賢いのよ。立ち去るほうがずっと勇敢なの」
しかしその後、どんなに脅しにあろうとも屈しなかったヴェロニカは、ついに信号待ちで運転する車内を狙われ、銃殺されました。
もしも母親の言うように戦わずにいたら命を落とすこともなかったかも・・・。しかし、彼女の死後、麻薬撲滅の運動が広がり、アイルランド議会で憲法が改正されました。その結果、150人以上が逮捕され、不明な資産も没収されることになったのです。
本作は、戦わず立ち去ることも美学だと教えてくれると同時に、危険を冒してすら人の心に訴えかける信念や芯の強さは、何物にも代えがたいものだとも教えてくれます。この先何かを選択しなければならない時に、恐怖心や弱い自分と自分ならどう戦うのか。そのことを考えるヒントにもなる映画です。
(文/森山梓)