静かな感動と共に、『教育』と『難民』について真剣に考えた。『ぼくたちのムッシュ・ラザール』
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難民映画祭というものが日本で開催されていたことを初めて知りました。
本作は、アカデミー賞外国語映画賞を始め、数々の賞を受賞した2011年のカナダ映画。2013年9月28日〜10月6日に開催された「第8回UNHCR難民映画祭」でも上映されました。
モントリオールの小学校で、女性教師が教室で首つり自殺をし、代わって赴任してきた中年男性(バシール・ラザール)と生徒との交流を描いた物語。
担任の自殺という事実は、想像以上に生徒たちの心に暗い影を落とします。中でも、自殺姿を目撃してしまったシモンという男子児童が、先生の自殺の原因が自分にあると周りから疑われている苦悩と、「ぼくじゃないよね」と泣きながらその想いをクラス中に吐露するシーン。11、12歳の小さな胸の中での孤独な苦しみを想うと、とても胸が痛くなりました。
そんな彼らに対し、ラザールは「今も胸が苦しいのはその人を愛し、愛されたからだ」と諭します。子ども達の立場に立った優しい眼差しに、自分もこんな担任に出会えていたらと思わずにはいられませんでした。
そして、実はラザール自身にも、アルジェリアからの難民であるという隠された事情がありました。教師をしていたのは彼の亡き妻で、彼に教師経験はありませんでした。それでも、子ども達にとって大切なことを、ユーモアをもって真摯に教える姿は、やはり理想の教師像。彼は笑うと目尻がとても下がり、それだけで優しそうに見えることも大きなポイント。見た目ってほんと大事です。と話は逸れましたが、難民映画祭出展の本作をみて、日本ではあまり身近ではない(筆者の周りではですが)難民について知る一つのきっかけになりました。実はこの日本にも、世界各国から年間1000人以上の難民が逃れてきているそうです。
物語に話を戻すと、ラザールが難民という事情を伏せた理由。それは前任者が自殺した為に、後任には問題が起きないような人物(素性がはっきりしていた方がいいですよね)が適任という学校側の思惑があったからです。国の事情でやむを得ず、難民という立場にならざるを得なかったのに...。この映画はフィクションですが、ありそうなことです。難民に認定されるまでの厳しい審査の様子も少し描かれていましたが、日本でもかなり厳しいそう。難民についてもっと理解が進むように、この映画や映画祭が広く浸透するといいなと思いました。映画の担う役割の大きさを感じることのできる一本です。皆さんもぜひ。
(文/森山梓)