もやもやレビュー

酒の肴には語り合う夢さえあればいい、『トキワ荘の青春』

トキワ荘の青春 [DVD]
『トキワ荘の青春 [DVD]』
本木雅弘,大森嘉之,生瀬勝久,古田新太,鈴木卓爾,阿部サダヲ,時任三郎,桃井かおり,市川準
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 シェアハウス歴4年の友人に「シェアハウスってみんなで飲み会とかするんでしょ?いいなー」と言ったら、虚ろな目で「俺以外の住人はな」と返してきました。悲惨です。彼の行く末を案じつつ、日本一有名なシェアハウスを舞台にした映画『トキワ荘の青春』(1996年公開)を観てみました。

 トキワ荘は1952年から1982年の30年にわたって漫画家たちが生活し、多くの名作を生み出した場所。本作で描かれたのはその中の初期の部分だけですが、とにかく登場人物が多い。源氏物語とまではいきませんが、漫画家だけで12人もいます。誰が誰なのか特に説明はないので阿部サダヲが藤子・F・不二雄で、生瀬勝久がラーメン大好き小池さんのモデルの鈴木伸一で、本木雅弘が寺田ヒロオで......と、俳優で覚えることにしました。それにしても俳優が豪華です。今ならみんな主役を張れるレベル。

 有名漫画家の集まりとして名高いトキワ荘ですが、成功する人もいれば、夢やぶれてトキワ荘を後にする人もいました。作中特に印象に残ったのが赤塚不二夫と森安直哉の対比。森安はTHE・ダメ人間といった感じで、自分の漫画を理解しない編集者の愚痴をもらしたり(毎回、寺田ヒロオが聞き役)、牛乳配達で手に入れたお金も賭け事に使ったり、どんどん落ちぶれていきます。赤塚はというと、年下の石森のアシスタントをしながらも諦めることなく漫画を描き続け、ついには売れっ子漫画家へとのし上がります。雨に濡れながら「やった・・・」と小さな声で嬉しさを噛み締める姿に心がジーンとなります。

 また本作では、漫画が売れている売れていないに関わらず、全員が集まって焼酎のサイダー割り(チューダー)を飲みながら漫画談義を交わす場面がでてきます。志が同じ仲間との飲み会って本当に楽しいんですよね。(遠い目)

 友人もこういうことがしたかったのかなーと思いつつ、いつしか自分もトキワ荘の住人と酒盛りをしている気分になっていました。そうか、仲間がいないのなら映画を観ながら飲めばいいんだ。アルコールでぼうっとしてきた頃「これでいいのだ」とどこからか聞こえた気がしました。

(文/宮澤諒)

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