いいことも悪いことも、ちゃんと終わりがくる『THE有頂天ホテル』

　少し気が早いですが、一年の終わりは色んな事がリセットされる日です。紅白を見ながら好きな子に振られたことを水に流し、除夜の鐘を聞きながら煩悩と苦悩まみれだった一年を水に流すのです。『THE有頂天ホテル』は、そんな大晦日という特別な日に巻き起こる、人の苦渋と歓喜を描いた極上のコメディ映画です。

　舞台は高級ホテル・アバンティ。様々なハプニングに見舞われる副支配人の新藤を筆頭に、23人の登場人物が交錯し、生まれる予想外の事態と混乱。そして三谷幸喜監督が用意した抜群の笑いの数々。汚職まみれの代議士、自殺願望のある演歌歌手、長年夢見てきた歌手の道を諦めようとしているベルボーイなど、人生のマイナス面に囚われかけたキャラたちは、それぞれに関わり合いながら前を向き、来年へと希望を繋いでいきます。たとえ今はイケてなくても、もがきあえぎながら、自分を明日へ繋いでいくんだということを、彼らの背中が教えてくれます。

　大晦日という一年の節目を舞台に「いろんなことに、ちゃんと終わりはくる」という当たり前だけど忘れがちなことを伝えてくれる本作。「年の瀬なんて待ってられない！いますぐ忘れてしまいたいことだらけ！」というそこのあなた。どうせ忘れるなら、爆笑しながら水に流してしまいましょう。ホテル・アバンティでなら、いつでも最高な年越し気分を味わえますよ！

（文／伊藤匠）