縁の遠い人とほど、合唱しよう!『川の底からこんにちは』
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- 満島ひかり,遠藤雅,相原綺羅,志賀廣太郎,岩松了,石井裕也,石井裕也,満島ひかり
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かつて通っていた学校が荒れに荒れていました。ガラスは一日2枚ペースで割られ、時には窓から飲み終わった牛乳ビンを投げる猛者も。そんなサバイバルのような学校生活の中で唯一、不良軍団との壁がなくなったのがクラス対抗の合唱コンクールの時でした。その頃のことを『川の底からこんにちは』を観て思い出しました。
木村佐和子(満島ひかり)は上京5年目25歳のしがないOL。仕事に精を出すわけでもなく、「自分は中の下の女ですから」と言い切り、人生に妥協したような色味の薄い毎日を過ごしていました。そんな彼女の元に、郷里の父が倒れたという連絡が届きます。さらには、実家が営んでいたしじみ工場の跡を継いでほしいという叔父からの願い出まで。仕方なく工場を受け継いだ佐和子ですが、5年前にある理由で実家を飛び出した佐和子を、快く思わない工場のパートのおばちゃんたちは総スカン。おまけに工場の業績は悪化の一途と、もはや苦悩の果てに追いやられた佐和子は、自らの固い妥協の殻をぶち破り、工場の改革へと乗り出していきます。
本作の一番の肝となっているのが、佐和子が工場の気だるい空気を破壊すべく作り直したアナーキーすぎる社歌を、社員全員で大合唱するシーン。対立していたおばちゃんたちと佐和子が一心不乱に声を張り上げるこの場面を見て思い知らされたのが、「歌を一緒に歌うこと」の壁をぶち壊すパワーでした。冒頭の母校での、不良との団結もその一例。声を合わせさえすれば、たいていの人間関係の溝はひょいっと超えられそうな気がします。困った時は、ひとまず合唱してみましょう! いや、合唱が無理ならカラオケでもいいんだ!
(文/伊藤匠)