斜め上の関係性の人こそが、大事なことを教えてくれるのかもしれない。『まほろ駅前多田便利軒』
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- 瑛太,松田龍平,片岡礼子,鈴木杏,本上まなみ,大森立嗣
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「斜め上」の所にいる人からの言葉の方が、真に迫るものが多い気がします。例えば、規則に厳しい学校の先生より、年の近い塾の大学生講師。真面目なニュースのコメンテーターより、深夜ラジオの下ネタ好きのパーソナリティー......。今作の主人公の多田と行天もまた、観ている人に「斜め上」からの言葉をぶつけてくれる、バツイチのおじさんたちです。
東京の南西の町、まほろ市。その町の駅前で便利屋を営む多田啓介(瑛太)の前に突然現れた、中学の同級生の行天春彦(松田龍平)。今晩だけ泊めて欲しいと言う行天をしぶしぶ家まで連れて帰る多田ですが、その後もいっこうに帰る様子のない行天。こうして、雲のようにふわふわとした2人の共同生活&便利屋業はスタートすることに。そんな2人の請け負ったお仕事の中で、特に印象に残ったのが塾へのお迎え業務のエピソードでした。
母親からの依頼で迎えに来た多田と行天を怪しみ、ぶっきらぼうな受け答えに終始する小学生の由良君。そんな彼に対して、「かわいくねぇガキだな」とかけらもオブラートに包まない受け答えをする2人。一見大人気ない言い方をしつつも、放任しっぱなしの母親とは違い、自分の言葉に全力で反応を返してくれる2人に、由良少年は徐々に心を開いていきます。
小学生だからといって言葉や姿勢を変えず、あくまで「自分と対等な一人の人」として接する多田と行天の立ち振る舞いは実に爽快です。偉ぶるわけでもなく、下手にでるわけでもない。説教臭くもなく、かといって中味のない薄っぺらなものでもない。そんな2人の上でも下でもない「斜め上」の風通しのよい姿勢に、この上ない好感を抱いてしまったわけです。
身の回りの煩雑な関係性に少し疲れ気味な時。「まほろ」にひっそりと生息する彼らとの、人間臭く温かいひと時をおすすめします!
(文/伊藤匠)