『ザ・マジックアワー』を観て、みんなが役者なんだと思った。
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「はしゃいでいる学生は嫌いなくせに、本当は自分もはしゃぐ側に行きたい。だけど出来ない、こじらせ系男子大学生」という長ったらしい役があったら、こんなに自分にとって演じるのが楽な役はありません。だってもう、素の自分を見せばれいいだけですから。こんなことを考えてしまったのは、今回紹介する『ザ・マジックアワー』を観たからに違いありません。
映画のセットのような建物が立ち並ぶ不思議な港町・守加護のマフィア「天塩商会」のドンである天塩(西田敏行)。そして彼の愛人であるマリ(深津絵里)に手を出してしまった備後(妻夫木聡)。命乞いの結果、伝説の殺し屋「デラ富樫」を天塩の元に連れてくれば見逃してもらえることになった備後は、早速捜索を開始。しかし、一向に掴めないデラの行方。八方塞がりになった備後は売れない役者・村田大樹(佐藤浩市)を映画の撮影と称して呼びつけ、「デラ富樫」という役を演じさせるという奇策に打って出ることに。デラだと思い込んで接する天塩商会の面々と、他のキャストだと思い込んでリアルヤクザに演技指導まで始める村田。それぞれの勘違いが入り交じり、備後の命がけの映画撮影は怒濤の展開と予期しない笑いの渦を見せていきます。
作品を観て笑い転げている最中、ふと気になったのが「どこからどこまでが演技になるんだろ」ということ。デラを演じる村田は、その臭すぎる演技ゆえに浮世離れした本物の殺し屋だと思われ、本物のマフィアとしてマフィアの役をやっている天塩商会の人たちの方が、デラから演技の注文を付けられる......。
ちょっとややこしくなってきましたが、つまるところ思ったのは、人は生きているだけで何かの演技をしているんだということ。自分もこの記事を書いている間は「ライター」という役になっているわけですが、普段通っている大学ではしがない大学生の役を粛々と演じているわけで。「演じる」ことって、たぶん思っている以上に日常的な行動なんだと思います。
(文/伊藤匠)