もやもやレビュー

敵への敬意の美しさに心が揺さぶられる『レスラー』

レスラー [DVD]
『レスラー [DVD]』
ミッキー・ローク,マリサ・トメイ,エヴァン・レイチェル・ウッド,ダーレン・アロノフスキー
Happinet(SB)(D)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

2020年のオリンピック開催地が東京に決定しましたね! というわけで、スポーツの素晴らしさを感じられるこの名作を。ヴェネチア国際映画祭で「金獅子賞」も受賞した、心たぎらせてくれる熱い男達の映画です。

 1980年代、人気レスラーだったランディ(ミッキー・ローク)は、今ではスーパーでのパートを掛け持ちしながら、老いた身体に鞭を打ってリングに上がる日々。家族も離散し、孤独な日々を送る彼の元に届いたのが、往年の名勝負と謳われていたジ・アヤトラー戦の20周年記念試合の申し込み。かつての栄光を取り戻そうと再戦へ熱意をたぎらせるランディですが、長年の薬物の使用による病が彼を襲います。

 熱闘を繰り広げる試合シーンも勿論ですが、一番心揺さぶられたのはレスラーたちの、対戦相手に対する「敬意の深さ」です。

 当たり前ですが、プロレスは対戦相手がいなければ強烈な技を観客に見せることはできません。そのため、レスラーたちはお互いのことを気遣いながら入念な準備を行い、最高のショーを観客の前で披露しようと努力します。この作品は丹念にそれらを描写することで、プロレスだけでなく、あらゆるスポーツに共通するだろう「敵やライバルへの敬意の大切さと美しさ」を教えてくれます。

 スポーツは勝ち負けという結果は勿論ですが、プレー自体を観ることの楽しさも大きいはず。映画だって、ハッピーエンドやニヒルな結末だけではなく、それに至る過程に面白さがあるもの。そう考えると、スポーツと映画って似た者同士なのかもしれません。

(文/伊藤匠)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOK STANDプレミアム