もやもやレビュー

誰も本当には「シングル」じゃないのかも、と思った。『シングルマン』

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 皆さまごきげんよう。iPhoneの電源ボタンが中に入ったきり、戻ってこなくなりました。元々ボタンの上下する範囲は1ミリくらい。その単純かつ小規模な往復運動がイヤになってしまったのでしょうか。スリープモードにできず、電池残量がみるみる減っていきます。

 さて『シングルマン』を観てみました。大学の先生をしているジョージは、ある夜電話で16年間連れ添った恋人が事故で亡くなったことを知らされます。光を失い、その後の毎日をただやり過ごすジョージは、恋人の死から8か月が経ったある日、ついに人生を自分の手で終わらせることを決意します。
 
 絵画のように美しく、抑えたトーンで進んでいく画面。服装をはじめ日常に決然たるルールを持って暮らすジョージ。この作品がグッチ、イヴ・サンローランを経て自身のブランドを手掛けるトム・フォード監督の美意識の結晶であることが窺えます。

 しかし時に、監督とジョージの創り上げる完璧な調和が乱されます。ピストル自殺を企てるジョージが手際よく逝くために(あるいは死後の処理を簡便にするために)用意したシュラフというものの間抜けさ。教え子となりゆきで夜の海で泳ぐこと。古い友人と酔っ払って踊っちゃうこと。どんなにシリアスにクールに、自分のルールの中だけで生きていきたくても、人生にはそんな態度を丸きり無視して突っ込んでくる「他人」が存在します。そしてその他人の「せい」なのか「おかげ」なのか、人生は予定調和の枠から飛び出し、思いもよらぬ方向に転がって行くことがあるようです。ジョージもやはり、教え子が若々しい命そのものでぶつかってくる様子に、思い描いていたシナリオを変更せざるを得なくなります。

 「自分は一人だ」と絶望することもある。でも本当は、自分の面倒を100%自分で見られる人なんていなくて、迷惑を掛けたり掛けられたりの中、ご縁のある人とできるだけ楽しく生きたいなー、と光を見せてくれた作品です。

(文/小野好美)

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