離婚は身近な出来事だと思い知らされる『イカとクジラ』
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両親ともに小説家という、インテリ家庭の離婚問題をめぐる物語。母親は見た目に反してビッチな人気作家。父親は難解な作品ばかり書いていて、全く売れなくなってしまった落ち目の作家。そんな両親2人が突然離婚宣言をしたことから、思春期の年頃を迎えた2人の息子の心にも歪みやひずみが生まれていきます。ちなみに長男役は『ソーシャル・ネットワーク』でマーク・ザッカーバーグ役を演じたジェシー・アイゼンバーグです。やっぱりこのモラトリアム顔、たまりません!
息子たちの歪み方や、父親や母親の大人になりきれない親加減などが抜群にリアルで、離婚問題を身近に考えさせられる作品だと思います。家族を心身ともにバラバラにしてしまった張本人である両親。子どもからしたらサイアクな人々ではあるのですが、それでもやっぱり愛すべき人間であるし、何より離婚した両親は特別な人たちではないんです。
特に気になる存在なのが、自分が難解な作品を書くことをプライドにしていて、「本にも映画にも興味のない奴を"俗物"と呼ぶんだ」と、他人を見下すことでプライドを保っている父親。確かに鼻につくところは多いですが、同じ屋根の下に同じ職業の売れっ子で、しかもビッチで浮気までしている人がいたらどうですか。ただでさえ売れない自分に焦りを感じるのに、加速度MAXで自信を失っていくに違いありません。自分の自己実現についてのモヤモヤ感って、きっと多くの人が抱えていて、それはたとえ人の親になったとしても消えるものじゃないと思います。もちろん母親側の"恋愛"問題も同じで、やっぱり結婚してもモテたいし、子どもがいたってモテたいはずです。その気持ちを前提として、どっちが大事かを考えた時に「家族だ」となりきらなかっただけ。どんな人の天秤もきっと多少は揺れるわけですから、他人事ではないんです。父親のイタさ加減も、母親のビッチぶりも。とはいえ一方で、子どもの立場になれば親の自己実現なんて考えられるほど成熟しているはずもなく。現に離婚問題のせいで、子どもたちの精神、歪んできてますし。なんてことを思いつつ、インテリ家庭の崩壊と、その中でも少しずつ成長していく息子たちを見守っていると、最後はちょっと心が温まる。地味に素敵な作品です。
(文/鬱川クリスティーン)