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『トイレット』の餃子に、コミュ障克服の可能性をみた

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『かもめ食堂』や『めがね』あたりを観たところで、「あー、これが荻上作品の世界観ね」と分かった気になって、「ご飯、おいしそうだよね」ぐらいのことしか言えない人は、だいたい友達がいないんじゃないかと思いました。なので、『トイレット』を観ました。友達が欲しいから。
 企業の研究室に勤め、プラモオタクで友達がおらず、家族とも離れて暮らす主人公のレイ。ところが、母親の死とアパートの火事をきっかけに、生意気な妹とひきこもりの兄、日本から呼び寄せた日本人の祖母"ばーちゃん"と、猫の"センセー"との共同生活を始めることに。ところが、人と関わることを避けて生きてきたレイは、予定外の共同生活にペースを乱され、ストレスが爆発。結局、家の中でも孤立してしまいます。孤独を愛する男、というとなんとなくカッコつきそうですが、いわば軽いコミュ障です。実の妹のことを「ひどいブス」と言ったりするし。ヒドい。
ですが、もっともコミュニケーションを避けていたのが、もたいまさこ演じるばーちゃんでした。娘の死と、慣れない海外生活のおかげですっかり憔悴してしまい、孫の誰とも会話せず、外出もせず、そしてトイレから出るたびに謎の深いため息をつきます。そんなばーちゃんを励まそうと、孫たちはテイクアウトのお寿司を振る舞ってみたものの、やっぱり深いため息とともに離席。もともと、ビールを飲みながら煙草をくゆらすようなモダンばーちゃんでしたから、きっと日本では築地あたりでおいしいお寿司を食べていたりしたんでしょう。「SUSHIなんて食えるか!」ってことです。しかも「トイレの便座が冷たいんだよ!」と日々、イラッイラしてもいた。たしかに、冬場の冷たい便座ってドキッとしますしね。
 しかし、そんなばーちゃんの閉じた心を溶かしたのが、みんなで作って食べた餃子でした。ばーちゃんの作る餃子は孫たちにとっては母の味であり、ばーちゃんにとってもまた、餃子は日本の味であり家族の味であったのです。孤立して拗ねていたレイも、ばーちゃんの餃子を食べてからは、家族に歩み寄るようになりました。でも、ここでちょっと疑問が湧きました。日本人にとってのソウルフードということなら、餃子じゃなくてもよかったんじゃないか、と。たとえば肉じゃがとかカレーライスとか、卵かけご飯だって立派な日本の食べ物だったりするわけですから。
荻上監督いわく、「家族の話なので、みんなでテーブルを囲んで作れて、みんなで食べられるものがよかった」とのことで、脚本の段階から「餃子」だと決まっていたのだそうです。たしかに餃子の形が作る人によってバラバラだと笑い合うシーンからは、「みんな違ってみんないい」的な作品のメッセージも読み取れそうです。餃子は、自己を認め、人とのコミュニケーションを円滑にするための、最強のツールに成り得るんですね、たぶん。よし、コミュ障を克服するために、今日から餃子作って食べます! とはいえ、一緒に作って食べてくれる友達ができない限り、作るときも食べるときもやっぱり一人。こぼれ落ちる涙が、いい塩梅に味付けしてくれるはず。きっと、そう信じてる。

(文/ペンしる子)

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