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『イレイザーヘッド』で絶望に磨きをかけて!

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 デイヴィッド・リンチが役者以外のほとんどすべてを担当し、身銭を切って完成させた処女作『イレイザーヘッド』。まったく金がなくニート状態だった(予想)リンチ、親からは「イレイザーヘッドのことは忘れろ」と説教され、仕方なく新聞配達をしながら作り上げた超低予算映画。主演のジャック・ナンスが部屋に入るシーンで、ドアノブをまわして開けるまでに1年半を費やしたというレジェンドも語り継がれています。また、資金難で長く撮影が中断されている間も、ずっとあのモジャモジャヘッドのまま撮影再開を待ち続けていたというジャック・ナンスの心の広さにも、胸が熱くなる。というか製作に5年かかっているそうなので、5年近くあの頭をキープしてたってことですよね。なかなかできないことです。友達がいない筆者も、このエピソードを知った時には仲間っていいものだなとしみじみ思いました。

 そんな『イレイザーヘッド』、まさにリンチののっぴきならない心情を投影した、強迫観念の塊のような映画です。金がないうえに、子どもまでできてしまった現実世界のリンチ。本来ならパパになるのは喜ばしいことのはずですが、そのことがますます強迫観念に拍車をかける。ジャック・ナンスと妻との間に生まれてきた赤ん坊は、奇怪な容姿をした奇形児。その赤子がとにかくビービーと延々泣き続け、妻はノイローゼになって家を出て行き、ジャック・ナンスは残された赤子と狭い部屋に閉じこもることに。公開当時、妊婦の観覧が禁止になったらしいですが、そんな話も頷けます。また途中、おたふくフェイスの女の子がステージで「天国には悩みなんかない。天国では何でも手に入る」みたいな歌を歌ってますが、こちらまで天国に行きたい気分になってきます。リンチの悪夢に引きずり込まれそうです。

 しかし、ここまで強迫観念に取り憑かれたら、それは逆にクリエイティブに活かせるんだと『イレイザーヘッド』は教えてくれます。みうらじゅんと伊集院光はかつて『D.T.』で「童貞であり続けることが想像力を培い、創造力を育む」と言って童貞の素晴らしさを説いていましたが、強迫観念もまた想像力と創造力の源になるのだと思います。世の中的にはマイナスと思われることも、アウトプット次第では強烈な持ち味になるということです。これからはもっともっと強迫観念に襲われて、もっともっと悪夢を見て、もっともっと絶望しておこう! 最悪な状況にすら感謝できる、素晴らしい映画です。

(文/根本美保子)

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