連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第96回 『中国超人インフラマン』

中国超人インフラマン [DVD]
『中国超人インフラマン [DVD]』
ダニー・リー,ワン・シア,テリー・リュー,ホア・シャン
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『中国超人インフラマン』
1975年・香港・85分
監督/ホア・シャン
脚本/ニー・クァン
出演/ダニー・リー、ワン・シア、テリー・リューほか
原題『中國超人 THE SUPER INHRAMAN』

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 1971年の春、『帰ってきたウルトラマン』と『仮面ライダー』が起爆剤となり「変身ブーム」が社会現象になった。『ミラーマン』、『怪傑ライオン丸』、『人造人間キカイダー』、『愛の戦士レインボーマン』、『ウルトラマンタロウ』、『秘密戦隊ゴレンジャー』といった特撮番組が毎日のようにテレビで流れていたのだが、ブームが翳りを見せ始めた1975年、何を血迷ったのか香港映画界の最大手ショウ・ブラザーズが日本風変身ヒーロー映画『中国超人インフラマン』を製作した。
 作品は単なるパチモンではなく、日本人スタッフが招聘されたため見慣れた特撮番組のテイストが味わえたのだが、「ヒーローはこうあるべき」といった概念の違いが日中であまりにもかけ離れていた。作品の日本版ビデオが未発売だった90年代、該当シーンを香港版ビデオで観た日本人特撮マニア(筆者含む)がカルチャーショックを覚え、以降作品はカルト化した(2004年に日本版DVD発売)。侍スピリッツで積み上げてきた日本特撮ヒーローのセオリーを無視した、中国超人の突き抜けた戦いっぷりに瞠目せよ。

 平和な香港に突然、氷河期から地底に眠っていた氷河魔族が目覚め地上侵攻を始める。ボスは水牛みたいな二本角のヘルメットを被り、ピチピチ短パンを穿いた氷河魔王女。どうやら女性上位の部族らしく、幹部はサイのような一角のヘルメットを被り、胸の中央がキューティーハニーみたいに空いたヘソ出し衣装に、やはりピチピチ短パンの魔女エレキアイ。休火山の魔鬼山にあるアジトに、ドクロ戦闘員(まんまショッカー戦闘員)と氷河怪人(まんまショッカー怪人)が集結。先兵として右手がドリルのドリラーと植物怪人プランダーが、防衛組織としてはネーミングが質素すぎる科学研究所を襲う。

 科学研究所のリュー所長は所員レイを実験室に呼び出し、10年間の歳月をかけた超人の改造手術を受けてくれと頼む。「人類のためなら例え死んでも本望です」と即答するレイだが、そんな大切な事を家族や恋人に相談しなくていいのか? それともレイは天涯孤独なのか? 彼の背景は何も語られない。こうしてレイは、東映特撮ヒーローのイナズマンとバロム・1を混ぜ合わせて真っ赤に染め上げたようなインフラマンに生まれ変わる。

 レイを演じたダニー・リーは、香港版キングコング『北京原人の逆襲』(77年)、猟奇ホラー『八仙飯店之人肉饅頭』(93年)、クライム・アクション『狼 男たちの挽歌・最終章』(89年)など様々なジャンルの作品に出演し、刑事役や警察官役が多いため「香港一の警官俳優」としても有名だ。

 実験室から飛び出したインフラマンは、プランダーに「バキュン、バキュン」と所員が普通の拳銃で応戦中の(光線銃ないの?)現場に急行する。インフラマンは「ハイッ、ホッ」とカンフーを使い、ウルトラマンのスペシウム光線と同じ構えで「超人ビーム!」と叫び、プランダーを光線で葬る。ちなみに所員の中で目立っている間寛平かアンガールズ山根に激似のオカッパ頭は、香港では有名なブルース・リーのソックリさん、ブルース・リ(笑)。

 毒々しいオレンジ色をしたクモ怪人が現れると、科学研究所の所員達がバイクで駆けつける(飛行メカもないんだ)。ここでレイは変身ポーズをとり「超人変身!」と叫び、メンバーの前で堂々とインフラマンに変身する(正体は秘密じゃないんだ)。するとクモ怪人は怪獣サイズに巨大化! これにインフラマンも「シュビンビンビン」とウルトラマンと同じ登場効果音で巨大化! 問題のシーンはここからだ。

 インフラマンはクモ怪人を担ぎ上げ、そこにあった変電所に投げ飛ばす(いや、ダメでしょ)。全壊した変電所から等身大に戻ったクモ怪人がチョコマカ出て来る。これを見つけたインフラマン、自分も縮んで対等に戦うのかと思いきや、そのまま「ズン、ズン」と怖い表情で歩き出す。日本の特撮ヒーローの顔は卵型で目付きもどこか優しいが、インフラマンは吊り目でアゴがゴツく悪者にも見える。インフラマンは右足を大きく上げクモ怪人を「グチャッ」と踏み潰し、そのままグイグイ踏みにじる。「ブチュッ」と緑色の血が飛び散り、クモ怪人はペッチャンコに。卑怯な戦法もアリよりのアリな中国超人だった。

 ラストもインフラマンは氷河魔族のアジトで大暴れ。女幹部エレキアイの両手首をスパッと切り落とし、魔王女の正体・翼竜怪人を倒す。戦いを終えたレイ達は、定員オーバー密状態の小型船で氷河魔族のアジトを後にする(あれ? 確かアジトは山だったはず)。なぜか船に乗っている近所の幼女が「所長、怪人はまた来るの?」と可愛く尋ねて終劇。


 でもインフラマンの「インフラ」って何? 恐らくインフラストラクチャー(交通手段・通信網・上下水道・電気など生活に不可欠な社会基盤)の略称で、交通インフラや通信インフラにみたいな超人インフラって事かな?

 インフラマンと怪人のスーツは、『ガメラ』シリーズや『仮面ライダー』シリーズを手掛けたエキスプロが制作。手堅いカメラワークは、60年代に新東宝から香港ショウ・ブラザーズに活躍の場を移し、47作品に携わった名カメラマン・西本正によるものだ。効果音は円谷作品のモノを使い(フリー音源)、劇中BGMも円谷作品『ウルトラセブン』と『ミラーマン』から無断借用されている(汗)。いかに日本的な作風である事が理解できよう。インフラマンの手段を選ばない戦い方を除いては。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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