第94回 『ロボット・モンスター』
- 『ロボット・モンスター [DVD]』
- ジョージ・ナダー,クラウディア・バレット,セレナ・ロイル,ジョン・マイロン,グレゴリー・モフェット,フィル・タッカー
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『ロボット・モンスター』
(原題『ROBOT MONSTER』)
1953年・アメリカ・60分
監督/フィル・タッカー
脚本/ワイオット・オーダン
出演/ジョージ・ネイダー、クローディア・バレット、トワルドーフスキー・ヴォン・ハインリッヒ、パメラ・ポールソンほか
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新型コロナの外出自粛により自宅で映画を楽しむ人が多かったと思うが、みなさんはどんな作品を観ていたのだろう。マーベル・ヒーロー映画? 新海誠のアニメ? 恋愛映画? 一般的な映画に全く興味がない筆者は、もちろんZ級映画三昧(でも『いぬのえいが』観て泣いたけどね)。その中で、当コラムの愛読者にぜひ観て欲しいと思ったのが、エド・ウッド作品と並ぶ最低映画の代表作『ロボット・モンスター』! 今回はオチのネタバレはやめておこう。オウチでDVDを観て楽しんでね。
幼いジョニーとカロラの兄妹が丘で遊んでいる。手作りの宇宙飛行士ヘルメットを被りオモチャの光線銃を撃つジョニーの姿がこの作品を暗示している。兄妹は洞窟の壁画を調査している考古学教授と若い助手に出会い、「冥王星でロボットと宇宙人を見かけたよ」などと宇宙人ゴッコに巻き込んで邪魔をする。そこへ兄妹の母親と姉が「お昼寝の時間よ~」と呼びにくる。どうやら父親は死去しているようで、教授を気に入ったジョニーは母親に「新しいお父さんが科学者だったらいいな~」とさり気なくアピールする。
数十分後、昼寝を抜け出して洞窟に戻ったジョニーは稲妻に打たれて倒れる。そして次のシーンでは唐突に2匹の怪獣が戦っている。しかもこれ、背中に作り物のヒレを付けた本物のワニと本物の大トカゲを「恐竜」に見立てた『紀元前百万年』(40年)からの無断借用シーンだ。かわいそうに大トカゲはワニの必殺デスロール(獲物を噛んだワニが自分の体を回転させて仕留める習性)でグルングルンとブン回されている(汗)。
「いったい何が起きているんだ?」と考える暇も与えず、シーンの繋ぎ目を無視して突然トリケラトプス同士の死闘が始まる。今度は人形によるストップモーション・アニメで、これは『燃える大陸』(51年)からの流用だ。だが、そのシーンはたった2秒で終わり再びワニ恐竜のデスロールで大トカゲがグルングルン。
ここでジョニーが目覚める。いつの間にか洞窟の入口に機械が置いてあり、奥から何者かが出てくるので、ジョニーは慌てて岩陰に隠れる。姿を現したのは、宇宙飛行士ヘルメットを被ったメタボなゴリラだった。そいつが機械のスイッチを入れると、モニターに同じようなヘルメット・ゴリラが映し出される。彼らはローマン星人で、XK2と呼ばれる地球に派遣された工作員と中継基地にいる上司が定期連絡を取り合っているようだ。XK2が上司に現状報告をする。「宇宙光線で先制攻撃したら、愚かな地球人どもは互いに核戦争を始めて全滅した」。ジョニーら数人を残して既に地球は滅亡していたのだ。上司はXK2に「生存者を見つけ次第殺せ!」と命じる。ゴリラの姿をした宇宙人の上司と部下が身振り手振りで会話する様子は、日本の特撮番組『宇宙猿人ゴリ』(71年)を彷彿とさせる。
それを見たジョニーは戦禍で半壊した家に逃げ帰る。なぜかそこには考古学教授がいて、ジョニーが「お父さん!」と声を掛ける(え? どういう事?)。しばらくすると教授の助手ロイも現れ、何かとアリスと言い争いながらも一家と行動を共にする(ここら辺の彼らの会話は解読不能なので全部省略)。
数日後、親父は人情に訴えようとしたのか、テレビ画面を通じて降伏を迫るXK2に自分の家族を紹介していく。XK2は「感情のない私には無意味だ」と言うが、ジョニーにアカンベーされると「ガキは生意気だ!」と怒りの感情を露わにする。さらに「待て。もう1度アリスが見たい」と、XK2はアリスに一目惚れしてしまったのだ(恋愛感情もあるぞ)。
その後、家を飛び出したジョニーを探すロイとアリスは、XK2を見かけると慌てて木陰に隠れる。すると密着するアリスにロイが欲情。最初は拒絶していたアリスだが、腕の肌をロイにフェザータッチされていくうちに抵抗できなくなり、その場で始めてしまう。
やがてカロラとロイはXK2にあっさり殺され、アリスは米国モンスター映画のお約束・お姫様ダッコで浚われてしまう(このシーン、カーズのヒット曲『ユー・マイト・シンク』のミュージック・ビデオで使用)。XK2が洞窟の入口でアリスを地面に下すと、「私を人間の男と思って振る舞ってくれ」と彼女の手を握るわ、上着をズラしてブラ丸見えにするわ。でもここから先を躊躇する純情なXK2は童貞なのか?
ここでジョージが登場し、囮になっている隙に夫妻がアリスを救出。一部始終をモニターで見ていた上司はXK2を光線で処分し「私がローマンの神だ」と自ら地球を攻撃する。すると、またしても唐突に人形アニメの恐竜や角をくっ付けられた本物のアルマジロ(笑)が現れ、ついでにワニ怪獣がトカゲ怪獣をグルングルン。だからそのシーン、何?
ちなみに、ほとんどが無名のスタッフとキャストの中にあって、1人だけ大御所がいる。音楽担当のエルマー・バーンスタインは、『十戒』(56年)、『荒野の七人』(60年)、『大脱走』(63年)、『ゴーストバスターズ』(84年)などで活躍し、『モダン・ファミリー』(68年)ではアカデミー作曲賞を受賞している。
さて、謎なのがタイトルのロボット・モンスター。ロボット出てきた? XK2は元々メカニカルなロボットという設定だったが、タッカー監督は低予算のためロボットの着ぐるみを作る資金がなかった。そこで友人が作ったゴリラのスーツを借り、宇宙飛行士ヘルメットを被せて「宇宙ロボット」と言い張ったのだ。ほとんどの文献で「宇宙人ローマン」と記述されているXK2だが、「私には感情がない」と言うあたり、実は宇宙人ではなくロボットだったのだろうか。でも、そんな事はどうでもいいか。なぜならば、この映画は(ピー)なので。ともかく、こういう時こそ深刻にならず、Z級映画を観て現実逃避しよう!
(文/天野ミチヒロ)