連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第92回 『猟奇! 蝙蝠男』

『猟奇! 蝙蝠男』※VHS廃番

『猟奇! 蝙蝠男』
1974年・アメリカ・94分
監督/ジェリー・ジェイムソン
脚本/ルー・ショー
出演/スチュアート・モス、マリアンヌ・マックアンドリュー、ポール・カーほか
原題『THE BAT PEOPLE』

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 新型コロナウイルスの宿主と見られているコウモリ。何作かあるコウモリのパニック映画の中で『吸血こうもり ナイトウイング』(79年)と『BATS 蝙蝠地獄』(99年)あたりが感染症の恐怖を描いていた。今回の作品はソコをちょっと捻って、世にも珍しいコウモリ男の映画、と言ってもバットマンではなくバットピープル(原題)の映画を紹介しよう。

 かつてこの作品は、東京12チャンネルで『SFこうもり人間 洞窟からの恐怖・襲いかかる無数の吸血生物群』というタイトルで放映され、レンタルビデオブームに沸く80年代に東映ビデオから『猟奇! 蝙蝠男』という、魅力的なのかチープなのか何とも言えない微妙な邦題でVHSビデオが発売された。作品が未だディスク化されていないレアビデオなので、見つけた人は迷わず入手しよう。

 作品のスタッフにB級映画の常連が揃う中、一際目立つ「特殊メイク/スタンリー・ウィンストン」......これって『ターミネーター』(84年)の特殊メイクで脚光を浴び、『エイリアン2』(86年)、『ターミネーター2』(91年)、『ジュラシック・パーク』(93年)とアカデミー賞視覚効果賞を3度も受賞(『ターミネーター2』ではメイクアップ賞も受賞)したレジェンド、スタン・ウィンストンのことか?

 ウキペで彼のフィルモグラフィーに当作品の記載はないが、同一人物とする専門書も存在するので、スタン・ウィンストンの仕事として話を進めたい。果たしてブレイク前の下積み時代に製作したスタン・ウィンストンのコウモリ男は、『仮面ライダー』(71年)のショッカー怪人・吸血蝙蝠男に勝てるのだろうか?


 医師のジョンは多忙を極めるため、1年遅れで妻のキャシーとハネムーンに出掛けるが、洞窟ツアーでコウモリに咬まれてしまう。気を取り直した2人はスキーを楽しむが、ロープウェイの中で突然ジョンが白目を剥いて暴れ出し病院に入院する。だが再び白目を剥いたジョンは、「私の体を使って何するの? 人体解剖? ふふっ」とナースステーションで私用電話中の若いナースを無意識のうちに噛み殺してしまう。退院したジョンに、捜査班のワード警部補が目を付ける。

 深夜、ホテルを抜け出したジョンは、まるで狂ったように洋品店のマネキンを地面に叩きつけてバラバラに破壊し、マリファナを吸っていた少女を襲う。しばらくして警部補がホテルにやってきて、ドアを開けた奥さんのネグリジェ姿を舐め回すようにイヤラシイ目で見る。町で少女が殺され、ジョンのアリバイを確かめにきたのだ。

 これまでナースと少女が殺されたが、どちらも噛むなどの具体的な攻撃シーンがない。ジラシ演出なのか? そして劇中で時おり恐怖を煽るように挟まれる「キィキィ!」と牙を剥くコウモリのカット。画面の端が見切れているが、明らかに翼の両端をスタッフが摘まんで鳴かせている虐待映像だ(汗)。さらにジョンは救急車を盗んで大暴走し、廃屋でホームレスを殺害(ここもホームレスが「うわ~」と悲鳴をあげている顔だけ)。前半を過ぎて未だ見所はない。

 その夜、警部補は夫が行方不明になり傷心のキャシーをパトカーでホテルまで送り、「心細いだろう」とズカズカ部屋の中まで入ってくる。おやおや、このオヤジ......。泣き出したキャシーを警部補は抱き寄せ、髪の毛に頬を埋める(おやおや~)、キャシーが顔を上げたところへブチュ~ッ。最初からキャシーを狙っていた警部補は拒絶されて部屋を出ていくが、普通ならワイドショー行きの警察官大失態だ!

 さて、指名手配中のジョンは、大胆にも病院に戻って狂犬病ワクチンを物色(まだ気狂犬病と思い込んでいる)。そこへナースが来たので投与してもらおうと思ったが、白目を剥いて発作! ビックリしたナースに逃げられ「ええい!」と狂犬病ワクチンをビニールパックのままラッパ飲み! それでも治らないジョンはようやく自分に起きた異変に気付き、ホテルに戻り「もう君とは会えない」とお別れのセックス。するとジョンに変化が! 体が黒ずみ始め鼻が変容し、口から牙が! 喜悦しているキャシーが「あら?」と目を開けてみると......。キャシーの悲鳴に当直が駆け付けると、ジョンは窓から消えていた。開始1時間15分という終盤に及んで、まだコウモリ男を出し惜しみするのか(怒)!

 そして洞窟内で遂に警部補とジョンが対決。警部補の強烈パンチでダウンしていたジョンが顔を上げると......出た! やっとコウモリ男に変身! でも猿人みたい(ビデオジャケット参照)。警部補に懐中電灯で照らされた顔がかろうじて見えたのだが、照明が暗くてディテールが見えない(一応翼らしきものが生えているようだ)。コウモリ男は驚いている警部補を打ち負かし、洞窟の奥へ消える。

 ジョンにやられた警部補は、待たせておいたキャシーをパトカーに乗せて洞窟から遠ざかる。それを追うコウモリ特攻隊がフロントガラスに「ビシャッ、ビシャッ」とぶつかって真っ赤に潰れる。車輪が砂地でスタックすると、キャシーが「グッバイ」と車から降りる。開けたドアからコウモリの群れが入り込み、警部補にたかって噛みまくる。苦しみに耐えかねた警部補は、ライフルで自分の喉を打ち抜いて自決! キャシーはジョンのいる洞窟へ向かって歩いていく......。


 スタン・ウィンストンのコウモリ男は鮮明に映されず、ラスト10分の間に一瞬登場しただけ。モンスター映画としては詐欺に近く、ビデオメーカーも「猟奇!」と謳わないと誰も観てくれないと思ったのだろう。さて、ショッカー怪人・蝙蝠男との軍配は......引き分けにしておこう!

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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