連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第97回 『人喰いワニ ジャイアント・クロコダイル』

『人喰いワニ ジャイアント・クロコダイル』 ※VHS廃番

『人喰いワニ ジャイアント・クロコダイル』
1978年制作・タイ・92分
監督/ダイ・ション・ボー、アン・ピー・リー
脚本/ダイ・ション・ボー
出演/バイ・ション・ダイ、チョー・ウォン・チェン、ボー・ディー・ヤー、アン・リーほか
原題『チョラケー』
中国題『鰐魚大災難』
英題『GIANT CROCODILE BLOODY DESTROYER』

***

 今年も夏休みのテレビ映画は、季節モノとして多くのサメ映画がオンエアされた。今も昔もサメ映画は生物パニック映画の王道なのだが、その陰で地道に作られているのがワニ映画。下水に捨てられたワニが地下構内で巨大に育ち生き延びているといったアメリカの都市伝説を映画化した『アリゲーター』(80年・米)は、日本でも劇場公開されたワニ映画の決定版だ。

 そこで当コラムは数回に渡り、世界各国の珍作ワニ映画を筆者が飽きるまで紹介しようと思う。その第1弾は、ワニ映画史上最大の巨大ワニが登場するタイ映画だ。作品は未だディスク化されず、中古ビデオ屋で7000円も吹っ掛けられたVHSビデオは貴重だ。ジャケットに記してある「血にうえた巨大なワニが、次々と人間を襲う!! 手が足がもぎとられ、鮮血が飛び散る! 地獄のスペクタル巨編!」というキャッチコピーは今回に限って嘘偽りなし! もはや地上波テレビでは放送不可能な残酷ワニ地獄を紹介しよう!


 作品はオープニングから驚かされる。「ウルトラマン・シリーズ」では番組の頭にタイトルロゴが表示されるまで凝った映像が流れるが、本作の冒頭で『ウルトラマンタロウ』と『ウルトラマンエース』のソレを編集で繋いだものが流れ出し「え?」と戸惑っていると、最後にドーンと出た「チャイヨー」の文字に2度ビックリ。チャイヨープロとは、かつて円谷英二の下で特撮技術を学んだタイのソムポート・セーンドゥアンチャーイが設立した映画制作会社で、ウルトラマンのキャラクター国外使用権を巡る超複雑な訴訟問題に発展したことで知られている(2020年、円谷プロ勝訴)。本作ではソムポート自らスタッフとして参加し、円谷門下の佐川和夫が特撮監督に招聘された。この頃は円谷の特撮技術がタイや香港などアジア圏に流出していた時代だったのだ。

 導入部も衝撃的だ。大海原に巨大なキノコ雲が浮かび、ナレーションが「原爆が落とされ第二次世界大戦が終了し、人類に平和が戻った」(おいおい)。そして死の灰は広島・長崎からタイの熱帯雨林まで届き、「核爆弾の大気汚染で生物が変化してしまう。特にワニ!」とナレーション。クモやタコなど一種のみ巨大化する怪獣映画で「なぜ他の生物も巨大化しないのか」といった疑問点を「特にワニ!」で片づける力技には脱帽する。

 巨大化したワニ(20メートル以上はある作り物)は、「ウモ~」と鳴いている水牛(本物)の頭をくわえて巨大な顎を上下にバクバク。次になぜか3メートルくらいになったワニは「ガーガー」鳴いて必死に逃げるアヒル(本物)の群れを追いかけ、背中に乗って遊んでいた猿(本物)を飲み込み、ついにパタヤビーチで人間を食う! 家族を3人殺された医師アンカン(主人公)は、病院を辞めて弟と共に復讐を誓う。今回この巨大ワニに名前が欲しい筆者は、子供の時に作ったプラモデル「海底怪獣ワニゴン」(日東科学、定価200円)から拝借して勝手にワニゴンと呼ぶ。

 川沿いの家に漁師の父親が小舟で戻ってくるのを見た息子が「父ちゃんが帰ってきたよ~」。すると家の中から爺ちゃんも婆ちゃんも家族全員がゾロゾロ出てきて、その重みで桟橋が壊れドボンドボンと皆が川に落ちていく(中には自ら飛び込む者も)。「コントか!」と爆笑していると川にはちょうどワニゴン(ここでは4メートル)がいて、漁師の息子を食ってしまう。完全に人間の味を知ったワニゴンは海で2名のビキニ女性を食らい(ここは20メートル)、国際色豊かな観光客で賑わうバンコク名物・水上マーケットに向かう。

 川沿いで人々が食事したり喫煙したりと思い思いに過ごしている。そこへ「バシャーッ」と大量の水がブッ掛かり、続けて巨大な尾(実物大)が彼らを薙ぎ倒す。ここは30メートル級の怪獣サイズだ。尾は川沿いの商店や食堂を破壊し、船上の物売りオバチャンも何もかも情け容赦なく川へ叩き込む。あちこちで観光客や地元民が逃げ回るが、どのシーンを見ても同じエキストラだ(笑)。

 果物や食器などで溢れた川面で人々がひしめき合い必死にもがいている。するとワニゴンの巨体が水中に渦巻を発生させ、その中に数人が捉われグルグルと洗濯機状態! 入れ食い状態のワニゴンは人間をバクバク噛み殺し、血に染まった真っ赤な水中に食い散らかされた夥しい数の人の手足が沈んでいく。他の生物パニック映画ではお目に掛かったことがない、凄惨なタイ式大殺戮ショーだ。

 ラストは捕鯨用の銛とマシンガンを装備した船で、アンカン兄弟がワニゴン退治に挑む。復讐鬼と化した兄弟の猛攻を受け血まみれのワニゴンは、必死の抵抗で弟と同船していた報道カメラマンを肉片に変える。船もワニゴンに破壊され沈没寸前、アンカンがワニゴンの口の中にダイナマイトを放り込む。海上にジャンプしたワニゴンは空中で爆散する!


 3メートルから30メートルとワニゴンのサイズが場面ごとで違うのは、予算削減のためチャイヨープロが制作した他作品からワニのフッテージを流用したためだが、それにしても大雑把すぎる(苦笑)。この作品後にチャイヨープロは、米合作映画『クロコダイルVSジョーズ』が企画倒れになるが、ちゃんとアサイラムが『メガ・シャークVSクロコザウルス』(10年)を制作しているので、気になった方は観てみよう。

(文/天野ミチヒロ)

« 前の記事「怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」」記事一覧次の記事 »

天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム