連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第91回『大群獣ネズラ』

『大群獣ネズラ』劇中の戦闘シーンを再現したジオラマ・フィギュア。(株)キャスト

第91回『大群獣ネズラ』
1964年公開予定・大映
監督/村山三男
脚本/長谷川公之
出演/宇津井健、川崎敬三、姿美千子、松村達雄ほか

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 ねずみ年の2020年、思いもよらなかった作品の制作が進行している。ガメラ・シリーズの第1作目『大怪獣ガメラ』が公開される前年の1964年、大映は巨大なネズミの群れが暴れ回る『大群獣ネズラ』を正月映画に予定していた。だが、トンデモナイ理由により撮影は中止に追い込まれ、『大群獣ネズラ』はまさに幻の怪獣映画となってしまった。それが今年、半世紀の時を経て産声を上げる。といっても単なるリブートではなく、作品が立案されてから企画倒れに終わるまでのスタッフの苦悩と挫折を描いたノンフィクション映画だ。だから『ネズラ2020』ではなく『ネズラ1964』なのだ。

 脚本・監督は、戦災でフィルムが消失した、やはり幻の特撮映画『大仏廻国』(1934年)をリメイクした『大仏廻国 The Great Buddha Arrival』(1918年)の横山寛人。出演は平成ガメラ・シリーズの常連、螢雪次郎ほかガメラ映画にゆかりのある俳優陣。1971年に倒産した大映作品の権利を引き継ぐKADOKAWA協力のもと、完成は今年の12月に予定されている。そこで今回は、『大群獣ネズラ』の内容と頓挫した経緯を予習しておこう。


 米ソ宇宙競争時代に突入した1960年代初頭、宇宙食を開発する三上博士の宇宙食糧研究所がある日本の南端・笹島(東京の沖ノ鳥島がモデルか)が舞台。開発途中の宇宙食S602は、無重力状態では問題ないのだが、重力のある地上で摂取すると体が極端に大型化するという副作用があった。ある日、S602を載せたヘリコプターが島内で墜落し、それを食べたネズミが牛サイズに巨大化して島の家畜や島民を食い荒らす。村の壊滅状況を見た島民が「ゴジラでもいるんでねえか?」(現存する台本より)......この台詞は使えないな(笑)。巨大ネズミは「ネズラ」と名付けられる。

 閉ざされた島で展開する動物パニック映画。これには2つの時代背景があった。当時、瀬戸内海の島と沿岸部でネズミの大量発生による農作物や海産物の被害、俗にいう「ねずみ騒動」が世間を賑わせ、これにヒントを得た特撮監督・築地米三郎が企画を発案。そして1963年にヒッチコック監督の『鳥』が大ヒットしていたことが企画を決定付けた。

 殺鼠剤と毒ガス攻撃により島を追い出されたネズラの群れは、海を渡り大島を経由して東京へ向かう。ネズラ対策本部は沿岸に電流防御網や機雷を設置、自衛隊は戦闘機と戦艦で迎撃してネズラに大打撃を与える。だがネズラの残党が羽田空港に上陸して旅客機を襲い、首都高1号線から都心へ侵入。戦車隊と火炎放射機部隊に攻撃されたネズラは、銀座の下水道や地下鉄に逃げ込み増殖を始める。

 三上研究所の大久保技師はネズラにS602を大量投与して、さらに巨大な怪獣マンモスネズラを作り、これを戦わせて共倒れを狙う。先述した「ねずみ騒動」では、ネコ、イタチ、ヘビを大量に放す天敵作戦を展開したが、巨大怪獣の登場は東宝ゴジラへの対抗心だろう。


 こうした巨大生物パニックに加え、S602を狙うソ連のスパイが絡むという見応えのありそうなストーリーだが、そのメイキング過程には幾多の障壁が立ちはだかった。

 大映初の怪獣映画として、もともとネズラはゴジラに準じた着ぐるみが予定されていた。だが、数年後にガラモン、レッドキング、エレキング、ツインテールなどの芸術的な怪獣スーツを生み出した名匠・高山良策が作った着ぐるみは思うように身動きがとれなかった。そこで本物のネズミを使ってミニチュアの車や建物と絡ませる方向に転換。大映系列の映画館では「1匹50円」で生きたネズミを買い取り、スタッフ達が「大映正月作品 大群獣ネズラ護送中」と横断幕を掲げたトラックで各館を回って集めた。ネズミは新聞広告でも集められ実験用モルモットも追加、その数は数千匹に及んだ。

 1963年の秋に調布市の大映東京撮影所で特撮班の撮影がスタートすると、ネズラが溺れ死ぬシーンでネズミ達は水槽で本当に溺死させられるなど、まずネズミ達が災難に遭う。70年代くらいまでの映画業界では、世界的にこのような動物虐待が平気で行われていた。しばらくすると、ネズミ達からノミ、ダニ、シラミが大量に発生。ダニと殺虫剤がホコリとなって舞う撮影現場でスタッフらはガスマスク着用で撮影に臨み、美術係の三上陸男ほか数人がダニアレルギーで瀕死の容態となり入院。のち三上は変身ヒーロー番組の仕事を請け負った際、マジでネズミの怪人だけには関わらなかったという。

 さらに杜撰な衛生管理や共食いで死ぬネズミが出始め、脱走して撮影所の近隣住民から苦情が殺到。組合争議にまで発展し、伝染病を危惧した保健所から警告を受け、撮影は約3000フィートのフィルムを撮った時点で中止が決定。残されたネズミは、保健所の指導により夢の島で石油を掛けて焼却処分され、近くの寺で供養が行われた。フィルムは、のちのガメラ・シリーズのメイン監督・湯浅憲明により予告編として編集され80年代まで残っていたが、現在の角川資本に変更される際に破棄されてしまったという(泣)。


 『ネズラ1964』はクラウドファンディングで支援が公募され、既に目標金額の100万円を大きく上回る約213万円が集まっている(1月31日時点)。サポーターへのリターンとして、全員にエンドクレジット掲載、ほか支援価格に応じて試写会招待、0号(試写版)収録DVD、パンフレットやフィギュアなどの特典グッズ、そして出演(10万円コース)も用意されているので、興味のある方はホームページを覗いてみよう。

 なお今回の撮影で改めてネズラの着ぐるみが作成されるそうだが......なんと! 性懲りもなく本物のネズミを使用するのだという。管理を徹底するということだが、そのリベンジ魂を買おうではないか。

(文/天野ミチヒロ)

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8センチ程のミニ・ソフビ。(株)マルサン

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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